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morimoriさん
morimori
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 「医師になるべきだったのか」という課題を持ちつつ、刑務所で働くことを決意し、受刑者たちの健康と矯正教育の改善のために奮闘する日々が綴られた一冊。
 父親の跡を継ぎ医師になった著者。研修医を経て新米医師になったものの上司からの叱責の連続に病み、引きこもり状態になってしまった。半年後、復職したものの以前と同じように働くと破綻すると思った著者は、自分の内側を外に吐き出すべくおもしろいと思ったこと、仕事をしていて発見したことなどを綴った。読み返してみておもしろいと思い編集部に電話営業をしたことで事態が好転した。「自分は医師になるべきだったのか」と思いながら父の病院を継いで15年が経った時、閉院を決意した。閉院準備をしている時、友人から厚生省がドクターを探しているという矯正医官の話を聞いた。

 少年院や刑務所、女子刑務所などで被収容者と向き合って治療をする様子がとても興味深い。刑務所内という全く知らない世界であり、かつ罪を償う受刑者たちの様子は罪を犯してはいるものの、単純に悪い奴!とは思えない。実の親から捨てられたり、親がわからなかったり、一般的なことを理解できるほどの知能が足りなかったりと被収容者が罪を犯すまでの生活は、想像することさえ難しい。患者の刑期を考えて治療にあたり、 「ちゃんと保険証のある生活をして、しっかりと診察を受けるんだよ」 と伝える著者の気持ちと同じような思いでこの一冊の本を読んだ。

 なかでも印象的だったのが1個の大福を盗んで、窃盗の罪で実刑になってしまったおばあちゃんの話。じき、判決が出て移送になると決まり最後の診察になると思われた日 「せんせい、わたしはね。次に生まれてくるときはね。せんせいみたいに、頭がよくって、きれいで、ちゃんと仕事ができるひとに生まれたい」 と言ったそうだ。

 矯正施設で診察を始めてからというもの、どんなふうに生まれ落ちたか、どこでどうやって育ったかが人間にとってどれだけ重要かを思い知らされている。それが、犯罪へと繋がっていくことを痛いほど教えられたのだ。

 罪を犯すことは、悪いことであるのには変わりがない。しかし、世の中普通と思われることを理解するのも困難な人もいるということ、様々な生育環境の中で生活をしている人もいるということを想像し、偏見を持たないことも必要なことかもしれない。人生を諦めることなく、皆が笑って過ごせるような社会であるために。
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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:951 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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