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休蔵さん
休蔵
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ダカール・ジブチ、アフリカ横断調査団に参加したフランス人民俗学者ミシェル・レリスの日記で、1931年5月19日から1933年2月16日の記録である。
 冒険譚・旅行譚は、時代を遡れば遡るほど、地域が遠く隔たれば隔たるほど、面白みが増すと考える。
 本書はダカール・ジブチ、アフリカ横断調査団に参加したフランス人民俗学者ミシェル・レリスの日記で、1931年5月19日から1993年2月16日の記録である。
 ただし、その内容は単なる日記に留まらず、調査の所見を記すこともある。
 さらには夢の内容までも丁寧に記述している。
 出版の際の序文構想まで掲載する。
 レリスは「書記兼文書係」として調査団に加わっており、そのことが些細な内容も記録に残すことに繋がったのだろう。

 調査はフランス領植民地の国々を中心として実施されている。
 各国の習俗や文化を日記体で記しもので、完全な客観的な叙述ではなく、レリスの主観を軸に描かれる。
 そこには多くの情報が充填されているが、ここでは3つの項目にまとめてみたい。

 1つは、民俗誌としての価値で、それはエチオピアのゴンダール民俗調査報告である。
 写真の掲載枚数は少ないが、儀式の模様を時間明示で記述したり、または憑依の様子を克明に記したりする。
 このダカール・ジブチ、アフリカ横断調査団の公式報告は刊行されず、レリスの日記が唯一の記録となったらしい。
 このことも本書の民族誌的価値をさらに高めてくれた。

 また、植民地下における支配と被支配の関係が窺える点も重要である。
 ただ、レリスはこの関係を毛嫌いしているため、偏った視点にならざるを得ないが、それでもヨーロッパ人の現地人に対する接し方、それに対する現地人の対応のあり方など、当時の様子を推測させるには十分な内容が残されている。

 さらに植民地での民俗調査を知ることができる点も重要である。
 特に資料収集の様子を赤裸々に曝け出しているところは、ヨーロッパ民俗学の歴史を紐解く上で欠かすことのできない好資料であろう。
 資料収集は購入という手段でも実施されたが、それが叶わない時には「洗いざらいかっさらう」(144頁)こともあった。
 民俗資料は、収集されて目録に記され、収蔵されると、その来歴は分かっても収集方法までは伝えられることはない。
 レリスの記述は、当時の民俗資料の収集のあり様を具体化してくれ、本書をヨーロッパ民俗学の研究史を紐解く上で欠かすことのできない存在へと昇華させたている。

 本書は解説を含めると1000頁超という、なかなかのボリュームの1冊である。
 しかしながら、長期に及ぶ日記という性格を考えると、このボリュームは必然なのだろう。
 ボリュームは十分で、なおかつ内容が多岐に及ぶことも本書の特徴である。
 読み手によっては、ここで示した以外の新たな見解、印象が得られるだろう。
 例えば、レリスの愚痴めいた感情の吐露と、時折書かれる夢の内容を比較検討して、レリスの心理の探究を愉しめるのではないだろうか。
 読み手それぞれの楽しみ方の探究も本書の魅力なのかもしれない。
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:449 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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