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休蔵さん
休蔵
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歴史では特定有名人ばかりが登場しがち。本書はあまり表に出てこない「個」に焦点をあて、国家や社会などとの連関を模索する。舞台は大西洋を挟む2つの大陸で、素材は20世紀の黒人のありかた。
 伝記は功績先に有りきである。
 功績があるからこそ人は偉人と賞され、偉人だからこそ伝記としてまとめられる。
 そのため伝記では功績のフィルターがかけられており、正解の姿だけが描かれがちだ。
 織田信長なんて、いろんな評価があってしかるべきだが、小学生向きのマンガ伝記ではヒーローとして描かれる場合がほとんどだろう。
 大切なのは「個体形成」である。
 歴史を織り成す重大要素でありながら表には出てこない「個」にスポットをあて、国家や社会など他の概念との連関を模索して「個人ならぬ「個体」の形成」を探る。
 いかにしてその「個体」になったのかを追求する試みを本書は多角的に論じている。

 舞台は大西洋を挟んで位置する2つの大陸で、素材は20世紀のおける黒人のありかただ。
 24人を主人公として登場させるが、なかにはモハメド・アリのような著名人もいれば、ジョゼ・コレイア・レイテなど日本人になじみの薄い人もいる。
 むしろほとんどがなじみ薄である。

 24人はそれぞれの舞台で一定の役割を果たす。
 政治であったり、新聞の編集を行ったり、研究を推進したりとさまざまだ。
 富裕者もいれば、難民という立場で苦しんでいる者もいる。
 しかし、立場とは無関係に本人の力だけではどうにもできないような事情が、さまざまな要因で解消されていく様子も本書には示される。
 偉人の軌跡をまとめた伝記の場合、苦難を乗り越えるのを個人の能力と直結させがちだけど、本書は淡々とした論じ方で進めていく。
 
 人物評価が変化しても、そのままを個体形成の要素として示す。
 エリジャ・マシンデは西ケニヤのブクス地方で勃興した宗教運動のリーダーである。
 彼の評価は政治権力側と民衆的反権力側で大きく異なり、さらにケニヤ独立を境に二分されるという。
 このことは人物評価の危うさを示している。
 正当な人物評価は、他者や時代背景が作り出すフィルターをいかに除去できるかにかかっていると言えよう。

 ただし、フィルターを完全に除去することは難しい。
 聞き書きや伝記、新聞記事などの分析を通じた「個体形成」に真実の追及は可能だろうか。
 さらに本書には論者も24人いる。
 年齢も経歴も異なる24人の論者には、それぞれの論点が存在する。
 同一人物を同じ情報で検討しても、まとめかたは大きく異なるはずだ。
 読者側の読み方や知識の影響も大きく、ここにも別のフィルターが存在するに違いない。

 しかし、考え方を変えると、フィルターそのものが研究の重要な要素とも判断できる。
 伝記や新聞記事などで生成したフィルターは、その資料が書かれた時代や地域の特性を示す要素として研究対象になり得る。
 また、研究者によるフィルターは、研究の独自性を際立たせるためには必要不可欠である。
 そういう意味では、同一人物の個体形成を複数の研究者のフィルターを通してみる試みも面白いはず。
 24人が24人を論じる本書の面白さを受け止めつつ、24人が1人を論じてみても興味深い成果が得られると確信する。
 さらに多くの読者が本書を評してみる試みも面白いと考える。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:450 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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