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風竜胆さん
風竜胆
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昔話は、ユング的な視点から分析できる
 著者の故河合隼雄氏(1928~2007)は、我が国における、ユング流精神分析の第一人者だ。本書は、グリム童話を中心に、昔話をユング流に分析したものである。

 ユングは、世界中の神話や昔話に典型的なイメージが存在することを重視した。彼は無意識の深層の中に人類に共通の普遍的なもの、すなわち元型(archetype)の存在を仮定したのだ。

 それにしても、昔話というのはなかなか凄まじい。例えば、「トルーデさん」という話では、魔女のトルーデさんは、女の子を棒切れに変えて、火にくべてしまう。ここに著者は、太母(グレートマザー)のイメージを見いだす。

 母性とは、生を産み出すとともに、イザナミのように死のイメージを持つ、両面的なものであるということだ。ヘンゼルとグレーテルの母親や白雪姫の母親は、継母ということになっているが、元々は実母という設定だった。すべての母性は否定的側面を持つのである。

 私は、昔話というものは、子供たちに教訓を与えるものだと思っていたのだが、どうもそればかりではなさそうだ。

 ところで、なぜ、世界中に似たような話が存在するのだろう。本書は、伝播の影響を否定してないが、ユングは、無意識の領域に人類共通の元型のようなものがあると主張している。元型だとか、人が生まれ変わることにより昔話がひろがったという超自然的な説明を別にすれば、考えられることは2つだろう。

 ひとつは、人間である以上似たようなことを考えるというものだ。もちろん文化というソフトウェアは違っていても、DNAによって作られる中枢神経系というハードウェアは同じなのである。長い歴史のなかで似たような話が出来ても不思議ではない。

 もうひとつは、似ているかどうかを判断するのは人間だ。そこには解釈という行為が入る。そして、誰かが似ていると言い出せば、他の人もそうだと思いがちになるものだ。

 それにしても、よく昔話を題材にこれだけユング流の解釈をつけられるものだ。まあ、「批評理論入門」(廣野由美子:中公新書)によれば、「フランケンシュタイン」には、マルクス主義やフェミニズム的な観点から批評しているものもあるようだから、その気になれば、いろんな視点からの解釈は可能なんだろう。最後の4分の一は、考察の対象となったグリム童話が収録されているので、元の話を知りたい人には便利だと思う。

 書かれていることすべて納得するわけではないが、たかが昔話といってもなかなか奥深いものだということがよくわかるだろう。されど昔話というところか。

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風竜胆
風竜胆 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2798 件)

昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。

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この書評へのコメント

  1. No Image
    アイコ2018-11-12 11:15

    昔話は本当は恐いと聞いた事がありますが、それが証明されそう・・・。

  2. 風竜胆2018-11-12 11:24

    >アイコさん
    今あるやつは、子供向けに大分アレンジされていますからね。オリジナルだとかなり怖いかもしれません。

  3. No Image

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