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休蔵さん
休蔵
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平安時代の貴族の日記が教えてくれる遺跡があるそうな。鳥羽離宮跡はそんなひとつ。本書は鳥羽離宮跡の調査成果と遺跡の解釈を示してくれる。
 古墳や近世城郭のようにその姿を誇示する遺跡があるなか、その気になって見つめないと尻尾を掴ませない遺跡が数多く存在する。
 地名にヒントを残してくれる場合もあれば、整備されていない微地形が地割として残ることもある。
 ただ、貴族の日記にヒントが隠されている事例となると、相当件数も地域も絞られてくる。
 本書が紹介する「鳥羽離宮跡」は、貴族の日記に登場する遺構が残る遺跡だ。

 舞台は京都市南の鳥羽で、桂川とかつての鴨川が合流する付近。
 時代は平安時代末。
 栄華を誇った藤原氏が弱体化していき、白河上皇や鳥羽上皇が院政を敷いていた。
 権勢を欲しいままにした上皇たちは、京都市の南側、鳥羽の地を選んで浄土世界を再現しようと力を尽くした。
 その遺跡が、部分的な調査を積み重ねることで明らかになりつつあるという。
 日記に残された施設群が姿を現すだけではなく、豪華な調度品も遺物として出土。
 さらに今まで守り伝えられた寺院や仏像もあり、当時の様子を垣間見せてくれる。

 鳥羽離宮跡には複数の陵墓がある。
 上皇たちは、自らが迎えられる浄土での安寧を願い、それを地上に再現した。
 寺院も数多く建てられ、浄土の前面に広がる池も長大だ。
 ただ、再現した浄土は、現在では埋没してしまっている。
 範囲があまりにも広すぎて、全貌を明らかにするための発掘調査は不可能だ。
 でも広大過ぎて全貌は不可能か。
 それでも工事に伴う部分的な調査成果を積み重ねることで、鳥羽離宮跡の姿が追及され、模型という手段で再現されている。
 
 研究は考古学的手法によるだけではない。
 まずは庭園の研究から始まったという。
 本格的な考古学的研究は、名古屋市と神戸市を繋ぐ高速道路の建設計画が契機だった。
 それに応じて詳細な測量が実施された。
 作成された地形図は、東西約1200m、南北約1600mという長大なもの。
 この地形図に現れた微地形や地名をもとに、施設比定が試行されていった。
 そして、部分的な確認調査が、施設の実態を示していく。
 地道な調査の積み重ね。

 そして、それを牽引したのは、貴族たちが残した日記である。
 当然のことながら、他地域では願っても叶わない一級素材である。
 この一級素材があるからこそ、鳥羽離宮跡はかすかな尻尾を掴まれることになった。
 そして、剝がされた革の下から骨格の一部が姿を現しつつある。
 京という土地だからこそ可能な調査・研究方法で、成果であると言えよう。
 鳥羽離宮跡の全貌を見ることは不可能だが、探求していく道筋の面白さを本書で見ることは可能である。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:449 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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