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ゆうちゃん
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フェルマーの最終予想が証明されるまでの数学者の苦闘の歴史を綴った本。1994年にワイルズが証明したと言われているが、彼の証明は日本人の志村、谷山を始め、多くの数学者の業績の土台の上に立ったものである。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

フェルマーの最終予想とは
べき乗n≧3、x^n+y^n=z^n
の式に於いて、これを満たす自然数x,y,zが存在しないと言うものである(本書ではフェルマー最終定理と訳されているが、証明されるまでは定理ではないので拙評では最終予想と書く)。n=2であればピタゴラスの定理でこれを満たす自然数は無限にある(3、4、5が代表例。3^2+4^2=25=5^2)。nが3以上でも式の意味は中学生でもわかる。しかし、この証明に300年以上もかかった。
全体は6章からなり、1章と6章は1993年から94年にかけてのワイルズが証明を講演形式で説明し注目を集めた様子、第2章はフェルマーがこう言う予想を立てるまでの歴史(ピタゴラス教団の話や、メソポタミアの粘度板にピタゴラスの定理を満たす整数が記載されていたこと)などが書かれている。そして3~5章が、主にオイラーやガウス、ソフィ・ジェルマンから谷山豊、志村五郎に至るまで約20名の数学者の業績のことが書かれている。
結局、フェルマー予想とは楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dに関する問題に帰着し、楕円曲線がモジュラーの性質を持つと言う志村=谷山予想と言う別の予想が証明されれば、自ずと証明されると言うことが20世紀後半に分かった。フェルマー予想を証明したアンドリュー・ワイルズの業績は、実はこの志村=谷山予想の一部(有理係数の準安定な楕円曲線と言う特殊なケース)を証明したのだが、フェルマー予想の証明についてはこの範囲の楕円曲線の証明で十分とのこと。

本書の最後を読むとワイルズの業績は多くの数学者の業績の上にあるとして、エルンスト・クンマー、バリー・メイザー、ゲアハルト・フライ、谷山豊、志村五郎の名前が挙げられている。これらの数学者の業績は更に遡って、オイラー、ガウス、ガロアらの業績に依存している。ピラミッドの頂点にワイルズが立ったイメージだが、ガウスを始め、20世紀に至っても幾人かの有名な数学者たちはフェルマー予想を孤立した問題、と断じていた。多くの数学の定理を寄せ集めないとフェルマーの最終予想は証明出来なかったので、この結果は皮肉である。
本書のもうひとつの特徴は、谷山豊と志村五郎の業績を強調している点である。谷山は若くして自殺してしまったのだが、彼の業績は、フランス人の数学者でブルバギ数学者集団の一員でもあるヴェイユによって無視された。ヴェイユと彼の弟子セールは、谷山の親友で谷山の予想をより明確化する仕事に取り組んでいた志村の業績も楕円関数の枠組みから外しそうとした。一時期、この楕円関数に関する予想はヴェイユ=谷山予想と呼ばれ、ヴェイユの意図かどうかわからないが、この様に自分の名前が冠されても特に異論は唱えなかった。サージ・ラングと言う数学者が、経緯を色々調べ、ヴェイユから自分はそう言う予想に関与したことはないと言質を取り、今では志村=谷山予想と呼ばれている。
一応、図などで説明は出ているが、4章の後半からは、引用されている数学的な概念を理解するのは困難である。フェルマーの最終予想を切り口に西洋数学史を学ぶ、と言った観点で読むと良い本だと思う。

(参考)
結局、フェルマーの予想は背理法で証明されたのだが、その過程はこんな感じである。
①全ての楕円曲線はモジュラー形式(保型形式の一種)である(志村―谷山予想、未証明)
②n=3,4、5、7までフェルマー予想は証明されている
③x^n+y^n=z^nを満たすn、x、y、zが存在すればフライ曲線も存在する(x、y、zは自然数、n≧3)(証明済)
④フライ曲線は楕円曲線の一種である(証明済)
⑤フライ曲線はモジュラーではない(証明済)
結局、これから①を証明すれば、フェルマーの最終予想は証明されたことになる。何故なら、フェルマー予想を偽と仮定すると③が成り立つ。しかし、これは④、⑤から楕円関数であってモジュラーではないとなる(ので、①が成り立つと背理法により矛盾する)。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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