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ぽんきち
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何の木が使われているのか、その木を使ったのはなぜなのか。
著者の専門は木材解剖学。ちょっと聞きなれない言葉だが、顕微鏡などを使って木材の組織を観察し、樹種を同定するのが主目的であるという。
もちろん、生きて立っている木であれば、種類の判別はそれほど難しくはないが、材木となった場合、そしてそれが仏像や建物に使用された場合、元は何の木だったのか見定めるのはそう簡単ではない。
外見から見る場合、色を見たり、手触りを確かめたり、匂いを嗅いだりといった五感に頼る方法がある。人によっては味で判断できる人もいるようだ。
とはいえ、感覚的なものだけではいつでも判別できるわけではなく、誤りがあることもある。
そこで登場するのが木材解剖学だ。
木材を構成する組織や細胞は、実は木の種類によって違う。道管の有無や並び方、数なども異なる。小さな木片の顕微鏡写真を撮り、微細な特徴を観察して判定する。
主に光学顕微鏡が使用されるが、電子顕微鏡でさらにより細かく見ていくこともある。
その場合、薄い切片を切り出してプレパラートを作る。
だが、文化財など、ものによっては対象を傷つけたくないものもある。そうした場合はCTやX線、赤外線といった手法もある。
DNAによる識別も期待されるところだが、木材には元々含まれるDNAが少なく、さらに、建築物などで経年劣化を受けているものからはよいサンプルが得られにくいという欠点がある。

実際にどういった応用が考えられるかというところだが、例えば仏像を見ていくと、時代によって使われる樹種が変遷していることがわかる。
奈良時代では、古来、魂を鎮められると考えられてきたクスノキで作られる例が多い。これがやがてカヤに変わっていくのだが、その背後には、制作法の変化に加えて、どうやら観音信仰が関係しているようなのだ。観音には護国の法力があるとされ、この特別な仏を彫るには白檀の木を使うべし、ない場合は代用として栢の木を使うようにという教えがある。この「栢の木」にあたるのが日本ではカヤであるのではないかというのだ。
樹種選定の陰に、当時の人々の信仰が見えてくるというわけである。

こうした研究を行う場合、分析に関する知識が必要なのはもちろんだが、それだけではなく、歴史や文化についても深く知る必要が出てくる。ある意味、学際的研究ともいえ、それゆえの難しさはありそうだが、ロマンや楽しさもある分野だろう。

仏像・神像だけでなく、仮面や義歯(木製の入れ歯があるのだ!)といったものにも触れられており、知らない世界が覗けてなかなか楽しい。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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