三太郎さん
レビュアー:
▼
1970年代から多くのブルーバックスを書いた都築先生が亡くなった年(2002年)に出された改定版でマックスウェルの悪魔について学ぶ。
先日、ブルーバックスでエントロピーをめぐる冒険を読んでレビューした。そのコメント欄でマックスウェルの悪魔についての言及があった。
僕がマックウェルの悪魔を最初に知ったのもブルーバックスの本だった。最初に読んだのはたぶん中学生のころで著者は都築卓司先生だったと思う。本書はその新装版だが、内容は1960年代頃の雰囲気を一部残しているが新しくまとめられたものらしい。
都築先生の本の特徴は結論はきちっと数式を使って説明しているところだ。厳密な理論は置いておいて結果だけ示しているのだが、結果が簡単な数式で示されていると中高生でも試しに様々な結果を計算してみることができる。指数や対数が出てくるが今は電卓で計算できる(僕が若い頃は対数表を使ったが)。フェルミ統計とボース統計で数値的にどれだけの違いが出るのか、実際に自分で計算してみるのも面白いだろう。
トランプを使ったゲームから始まって、情報量(W)とエントロピー(S)の関係を説明していくのはさすがだ。
また、自由エネルギー(F)とエネルギー項(E)とエントロピー項(S×T)の関係式
F=EーS×T
から、絶対温度(T)が低い時にはEが小さいほどFが小さくなり系は安定だが、温度が高くなるとS×Tが大きいほど、つまりSが大きいほどFが小さくなることを示し、気体が低温で液化する現象や、磁石の磁気が高温で弱まることなどを上手く説明している。
エントロピーは系全体では増加しこそすれ減少はしないというのが熱力学の第二法則だが、この第二法則に逆らうのが我らがマックスウェルの悪魔だ。でもまだ誰も彼を見てはいないらしいのだが。
ところで、疑似的永久機関である「水飲み鳥(平和鳥)」が出てくるが(最近はあまり見かけないなあ)、あれはなぜ真の永久機関ではないのか。平和鳥は嘴をコップの水につけると嘴から頭部を覆うフェルトなどが水を吸い、水の気化により頭部を冷やして内部の気圧を下げ、下の玉から揮発性の液体を吸いあげるのだが、この鳥が無限に首振り運動できるのは、大気中の水分が飽和していない、つまり相対湿度が100%未満だからだという。では、なぜ相対湿度が100%にならないかというと、大気が表面温度6000℃の太陽光により温められており、それに対して地表面の温度が20℃前後と低いからだと。
つまり平和鳥が動くのは、大地が短波長の(エントロピーの低い)太陽光を受けても、地表面の温度はそれよりずっとエントロピーの高い遠赤外線しか放射していないからだということになる。光のエントロピーの落差が相対湿度が100%にならない原因だという言われると、そうなのかと妙に感心してしまった。
最後の章は「カタストロフィー」と題されており、人類の活動がエントロピーをどんどん増やし、人類の文明があと200〜300年で終末を迎えることを予言している。一方で、エントロピーを減少させられるのが人間であり、人間こそがマックスウェルの悪魔ではないかとも書いている。
以下は僕の感想です。
最近注目されているAIについて考えると、AIによってフェイクニュースが蔓延り(数量的に真偽の判別は追い付かないだろうから)文明は破壊されるかもしれないし、AIに必要な電力を賄うために地球環境が破壊されるかもしれない。欲望の資本主義が行き着く先は独裁体制と荒廃した自然環境ということになるのかも。これもエントロピー増大の法則に従っているだけかもしれませんが。
僕がマックウェルの悪魔を最初に知ったのもブルーバックスの本だった。最初に読んだのはたぶん中学生のころで著者は都築卓司先生だったと思う。本書はその新装版だが、内容は1960年代頃の雰囲気を一部残しているが新しくまとめられたものらしい。
都築先生の本の特徴は結論はきちっと数式を使って説明しているところだ。厳密な理論は置いておいて結果だけ示しているのだが、結果が簡単な数式で示されていると中高生でも試しに様々な結果を計算してみることができる。指数や対数が出てくるが今は電卓で計算できる(僕が若い頃は対数表を使ったが)。フェルミ統計とボース統計で数値的にどれだけの違いが出るのか、実際に自分で計算してみるのも面白いだろう。
トランプを使ったゲームから始まって、情報量(W)とエントロピー(S)の関係を説明していくのはさすがだ。
また、自由エネルギー(F)とエネルギー項(E)とエントロピー項(S×T)の関係式
F=EーS×T
から、絶対温度(T)が低い時にはEが小さいほどFが小さくなり系は安定だが、温度が高くなるとS×Tが大きいほど、つまりSが大きいほどFが小さくなることを示し、気体が低温で液化する現象や、磁石の磁気が高温で弱まることなどを上手く説明している。
エントロピーは系全体では増加しこそすれ減少はしないというのが熱力学の第二法則だが、この第二法則に逆らうのが我らがマックスウェルの悪魔だ。でもまだ誰も彼を見てはいないらしいのだが。
ところで、疑似的永久機関である「水飲み鳥(平和鳥)」が出てくるが(最近はあまり見かけないなあ)、あれはなぜ真の永久機関ではないのか。平和鳥は嘴をコップの水につけると嘴から頭部を覆うフェルトなどが水を吸い、水の気化により頭部を冷やして内部の気圧を下げ、下の玉から揮発性の液体を吸いあげるのだが、この鳥が無限に首振り運動できるのは、大気中の水分が飽和していない、つまり相対湿度が100%未満だからだという。では、なぜ相対湿度が100%にならないかというと、大気が表面温度6000℃の太陽光により温められており、それに対して地表面の温度が20℃前後と低いからだと。
つまり平和鳥が動くのは、大地が短波長の(エントロピーの低い)太陽光を受けても、地表面の温度はそれよりずっとエントロピーの高い遠赤外線しか放射していないからだということになる。光のエントロピーの落差が相対湿度が100%にならない原因だという言われると、そうなのかと妙に感心してしまった。
最後の章は「カタストロフィー」と題されており、人類の活動がエントロピーをどんどん増やし、人類の文明があと200〜300年で終末を迎えることを予言している。一方で、エントロピーを減少させられるのが人間であり、人間こそがマックスウェルの悪魔ではないかとも書いている。
以下は僕の感想です。
最近注目されているAIについて考えると、AIによってフェイクニュースが蔓延り(数量的に真偽の判別は追い付かないだろうから)文明は破壊されるかもしれないし、AIに必要な電力を賄うために地球環境が破壊されるかもしれない。欲望の資本主義が行き着く先は独裁体制と荒廃した自然環境ということになるのかも。これもエントロピー増大の法則に従っているだけかもしれませんが。
お気に入り度:





掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
この書評へのコメント
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:講談社
- ページ数:280
- ISBN:9784062573849
- 発売日:2002年09月20日
- 価格:1029円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。





















