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休蔵さん
休蔵
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本書は江戸時代における利水と治水について、古文書をベースに考察を深めた1冊。二部構成で、江戸時代の治水・用水の知恵と水争いについて概述した後、河内国南部における水資源戦争の300年を詳らかにする。
 いまの時代、日本で暮らしていて「水資源戦争」と言われても、なかなかピンと来ない。
 もちろん、水田をしっかり維持して稲作に従事している人も多いから、切実と感じている人も多いのかもしれない。
 でも、お米を買うだけの立場だと・・・
 「水資源」ではなく、洪水として牙をむく「水」と言われるといろいろ考えるところはあるし、自然相手の「戦争」という考え方なら、なんとなく分からなくはない。
 本書が取り扱うテーマは水資源をかけた戦争で、相当に切実なものだったようだ。

本書は江戸時代における水資源の利用について、古文書をベースに考察を深めた1冊である。
 二部構成の本書は、まず第1部で江戸時代の治水・用水の知恵と水争いについて概述する。
 そして、第2部においてケーススタディとして河内国における水資源戦争の300年を詳らかにしている。
 第1部も興味深い点が多々記載されているが、詳細に考察を深めている第2部は読みごたえがある。
 まず、対象地域について解説する。
 対象地域は河内国南部、現在の大阪府藤井寺市・羽曳野市に属する地域とのこと。
 江戸時代前期、中期、後期、明治時代と節分けを行い、各段階の水資源の利用形態や考え方について詳しく述べる。
 それは段階的な変遷も具体化してくれていて、わかりやすい。

 水資源は川から引く。
 よって川上側の集落が有利となる。
 逆に言うと、川下側はさまざまな条件を受け入れざるを得ないことがあるということになる。
 それを助長するように、中流地点ほどで突如堰を創られたらたまったものではない。
 そんなことが実際に行われると、訴訟問題に発展する。
 訴訟での決着では、前例踏襲を是とする。
 過去に遡り、類似する事案を追跡して妥結点が見出されていったという。
 そのため、村人たちは過去の文書を取り出して自分の意見の正しさを主張したとのことだ。
 
 場合によっては、水を脅威とする集落とも争うことに。
 洪水に脅威にさらされる集落は、利水より治水を優先的に考える。
 当然のことながら、その影響は下流側に及ぶ。
 またも訴訟だ。
 
 現代アメリカは訴訟大国というが、近世日本もなかなかのものだったようだ。
 身分制度が明確でありながらも積極的に訴えを起こすさまは、現代日本ではあまり見られない取り組み方ではないだろうか。
 水利用の在り方だけではなく、訴訟を起こすことの具体についても考えさせられる1冊だった。

 ところで、本書は、「ですます調」で統一されている。
 ルビも多い。
 用語解説も手厚い。
 このことは、本書が日本史の専門家や専攻生というより、一般の読者を主対象にしていることを如実に示すものと理解できる。
 著者は『江戸・明治 百姓たちの山争い裁判』というタイトルの本を著している。
 いずれ読んでみたい。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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