ことなみさん
レビュアー:
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題名の「信仰」ってどういうことだろうと積んであった本を手に取った。
読んでみると信仰(カルトかも)話と、後半は初めて読むエッセイ。
村田作品の読み始めは独特の世界観だと思ったが、いつの間にか馴染んで、同じ世界に住んでいるようで、そういうこともあるあるという気持ちになる、作品に共感することが多い。
まず冒頭の
信仰
地元に帰って飲み会に出たら、あまり馴染みがなかった石毛が声をかけてきた。
「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」
誰が呼んだのか、隣に座ってしつこい。話のネタにしても面白いと聞いてみると、スピリチュアルとかカルトとかの流行に乗っかるらしい。断ったがしつこい。
そこに斉川さんが来た。大学時代に石毛と付き合っていたそうだ。彼女マルチで浄水器を売っていた過去がある、それが元で別かれたが商売経験者だから声をかけたという。お調子者。
おとなしいあの斉川さんがマルチ。
私だってこんな商売の裏話に少しは知識がある。法的にも。
斉川さんが「鼻の穴のホワイトニング」に行く私を送ってくれた。友達に石毛の話を「すっごい笑える話」だと結構ネタにしたが、なんで石毛に誘われたのか勘ぐられまいとつい斉川さんの名前を出した。
気弱そうな斉川さんはかなり浄水器に打ち込んでいたらしい。友達のところにも電話があったという。
本人曰く当時斉川さんは浄水器は人々のためになると本気で信じ込んでいたらしい。
なぜか彼女はこの話に加わってきた。訊いてみると過去のリベンジだそうで。
彼女がそこに持ち出してきたのは天動説。
科学は不思議だ。天動説のどこがおかしい。空を見れば星が昇って沈んでいく。斉川さんは言う。信じても信じなくても、昔は天が動いていた。それでいい。
過去の魂とつながれば今は癒される、それを広めるセラピーを考えている、という。
セラピー1回10万円。それでも4人来た。
私は子供の時から現実だけを見ている。アクセサリーだって原価は安い。それをみんなに教えてきた。「原価いくら」私の口癖になったが、周りが嫌がる意味が分からなかった。妹まで離れていった。私の「現実」はなぜ受け入れられないの?私は騙される才能がないの。
騙されてみたい、私は斉川さんのセミナーに同行することにした。そこで斉川さんの本音を聞いた。
詐欺でもいい騙しても「信仰」で癒される人がいる限り斉川さんは天動説を説くという。長野の山奥で白い衣を脱いで自然に帰った。しかし現実は運転手の男が盗撮し見つかって殴られはじめ私も我に返る。10万円返せ。私が叫ぶと歌うように人々も叫ぶ。みんなはうっとりと叫び続ける。
今時のカルトとは、セミナー参加の4人の話はちょっと現実離れをしているがテーマとしては現実的なのかもしれない。はまり切れないで現実に戻った私はジュウマンエンカエセと鳴くほかはない。それもまたあり。
原始に帰って天動説を感じるほうが「原価」に縛られるよりは生きやすいかもしれない。とそうはいかないのが今の教育だ。斜めに見ている作品が面白い。
生存
収入によって生存率が決まる。子供を長生きさせようとエリート教育をする。そんな世界。
ハヤトは「A」私は「D」。結婚すると二人とも生存率が下がる。65歳の生存率はわずかだ。野人セミナーに出て野人になることにする。今を写す話かも。
土脉潤起 どみゃくうるおいおきる
家を出てマンションの部屋を友人三人でシェアしている。三人とも契約社員なので休みになった人が家事を受け持つ。ユキコが一番休みも多く家事も手際がいい。三人の子供が欲しい人工授精はどうか。未婚だと許可がないので精子提供は海外からにしたがユキコに仕事が入って、私が引き受けた。
姉は三年前に野人になって家を出て山で暮らしている。寒い冬は心配だ。会いに行くと姉は「ぽう」と鳴いた。言葉はなく地面の巣穴で暮らしていた。帰りのバスで「ぽう」と鳴きながら駆け回る女の子がいた。
ちょっと距離感がある世界だけれど、自然のものも食べられず、土の巣で即死だな、私なら。
彼らの惑星へ帰っていくということ
周りになじめない、異物にならないようにイマジナリー宇宙人を作っていたこと。宇宙や宇宙人と一緒に暮らす日常。理解できない人を宇宙人だということにしてきた私とはちょっと違うけどまかぁわかる。
カルチャーショック
「均一」と「カルチャーショック」という国がある。
「均一」で育った僕は理解できない国だった。言葉も暮らしも同じ「均一」が住みやすい。
気持ちよさという罪
前作「カルチャーショック」のそばにある感覚。
「個性」とか「多様性」という言葉があるが、大人になって「気持ちのいい多様性」を言い換える言葉にであう。
それは今まで「多様性」を受け入れてきたが、私の「気持ちがいい多様性」ではないようで、私はわたしのまま一つの異物になった。今では異物であることを大切にする。
「クレージーさやか」と呼ばれるようになりキャッチコピーにまでなって、個性が多様性の一部であることに気づいた、そして傷ついた。
これはエッセイか。村田さんは言い換えれば個性的であっても普遍な多様性を秘めていることを知っている読者が作品を喜んで読んでいる。
私は深くて広い世界は多様性がうまく機能していて微妙に巧妙に構築されている世界だと思っている。
多様性が理解でき見分けられれば生きるのがもっと軽くなるような気もするが、個性のほうが多く光っていて未来を創る力があると思われているらしい。そのほうが分かりやすいかも、とも思う。
ただ好き嫌いでいうと、付き合うなら多様性を持つ人が面白いかなと。
改めて「クレイジーさやか」と呼ばれる(そうなのか初めて知ったけど)人が書く村田作品が好きなわけを考えてみた。
書かなかった小説
クローンロボットを4体買った。夏子ABCDと名付けた。コピーロボットでもそれぞれ違う個性がコピーされていて。
アラ、これは大混乱。
最後の展覧会
宇宙船が着陸した星にロボットが埋まっていた。聞いてみるとマツカタロボットという名でゲージュというらしいものを内蔵しているという。
ゲージュとはどういうものか。ミルトハナガサクラシイデス。ロボットが言ったが。
僕が預かったゲージュに似た概念を持つものを一緒に見せるテンランカイというものはどうかと話し合って招待状を作った。
この星はかつてチキューと呼ばれていて人間は滅びたらしい。ゲージュは生き続けてテンランカイはまだまだ続いている。ゲージュは生きているらしい。
「クレイジーさやか」読むとハナガサクラシイです。
村田作品の読み始めは独特の世界観だと思ったが、いつの間にか馴染んで、同じ世界に住んでいるようで、そういうこともあるあるという気持ちになる、作品に共感することが多い。
まず冒頭の
信仰
地元に帰って飲み会に出たら、あまり馴染みがなかった石毛が声をかけてきた。
「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」
誰が呼んだのか、隣に座ってしつこい。話のネタにしても面白いと聞いてみると、スピリチュアルとかカルトとかの流行に乗っかるらしい。断ったがしつこい。
そこに斉川さんが来た。大学時代に石毛と付き合っていたそうだ。彼女マルチで浄水器を売っていた過去がある、それが元で別かれたが商売経験者だから声をかけたという。お調子者。
おとなしいあの斉川さんがマルチ。
私だってこんな商売の裏話に少しは知識がある。法的にも。
斉川さんが「鼻の穴のホワイトニング」に行く私を送ってくれた。友達に石毛の話を「すっごい笑える話」だと結構ネタにしたが、なんで石毛に誘われたのか勘ぐられまいとつい斉川さんの名前を出した。
気弱そうな斉川さんはかなり浄水器に打ち込んでいたらしい。友達のところにも電話があったという。
本人曰く当時斉川さんは浄水器は人々のためになると本気で信じ込んでいたらしい。
なぜか彼女はこの話に加わってきた。訊いてみると過去のリベンジだそうで。
彼女がそこに持ち出してきたのは天動説。
科学は不思議だ。天動説のどこがおかしい。空を見れば星が昇って沈んでいく。斉川さんは言う。信じても信じなくても、昔は天が動いていた。それでいい。
過去の魂とつながれば今は癒される、それを広めるセラピーを考えている、という。
セラピー1回10万円。それでも4人来た。
私は子供の時から現実だけを見ている。アクセサリーだって原価は安い。それをみんなに教えてきた。「原価いくら」私の口癖になったが、周りが嫌がる意味が分からなかった。妹まで離れていった。私の「現実」はなぜ受け入れられないの?私は騙される才能がないの。
騙されてみたい、私は斉川さんのセミナーに同行することにした。そこで斉川さんの本音を聞いた。
詐欺でもいい騙しても「信仰」で癒される人がいる限り斉川さんは天動説を説くという。長野の山奥で白い衣を脱いで自然に帰った。しかし現実は運転手の男が盗撮し見つかって殴られはじめ私も我に返る。10万円返せ。私が叫ぶと歌うように人々も叫ぶ。みんなはうっとりと叫び続ける。
今時のカルトとは、セミナー参加の4人の話はちょっと現実離れをしているがテーマとしては現実的なのかもしれない。はまり切れないで現実に戻った私はジュウマンエンカエセと鳴くほかはない。それもまたあり。
原始に帰って天動説を感じるほうが「原価」に縛られるよりは生きやすいかもしれない。とそうはいかないのが今の教育だ。斜めに見ている作品が面白い。
生存
収入によって生存率が決まる。子供を長生きさせようとエリート教育をする。そんな世界。
ハヤトは「A」私は「D」。結婚すると二人とも生存率が下がる。65歳の生存率はわずかだ。野人セミナーに出て野人になることにする。今を写す話かも。
土脉潤起 どみゃくうるおいおきる
家を出てマンションの部屋を友人三人でシェアしている。三人とも契約社員なので休みになった人が家事を受け持つ。ユキコが一番休みも多く家事も手際がいい。三人の子供が欲しい人工授精はどうか。未婚だと許可がないので精子提供は海外からにしたがユキコに仕事が入って、私が引き受けた。
姉は三年前に野人になって家を出て山で暮らしている。寒い冬は心配だ。会いに行くと姉は「ぽう」と鳴いた。言葉はなく地面の巣穴で暮らしていた。帰りのバスで「ぽう」と鳴きながら駆け回る女の子がいた。
ちょっと距離感がある世界だけれど、自然のものも食べられず、土の巣で即死だな、私なら。
彼らの惑星へ帰っていくということ
周りになじめない、異物にならないようにイマジナリー宇宙人を作っていたこと。宇宙や宇宙人と一緒に暮らす日常。理解できない人を宇宙人だということにしてきた私とはちょっと違うけどまかぁわかる。
カルチャーショック
「均一」と「カルチャーショック」という国がある。
「均一」で育った僕は理解できない国だった。言葉も暮らしも同じ「均一」が住みやすい。
気持ちよさという罪
前作「カルチャーショック」のそばにある感覚。
「個性」とか「多様性」という言葉があるが、大人になって「気持ちのいい多様性」を言い換える言葉にであう。
それは今まで「多様性」を受け入れてきたが、私の「気持ちがいい多様性」ではないようで、私はわたしのまま一つの異物になった。今では異物であることを大切にする。
「クレージーさやか」と呼ばれるようになりキャッチコピーにまでなって、個性が多様性の一部であることに気づいた、そして傷ついた。
これはエッセイか。村田さんは言い換えれば個性的であっても普遍な多様性を秘めていることを知っている読者が作品を喜んで読んでいる。
私は深くて広い世界は多様性がうまく機能していて微妙に巧妙に構築されている世界だと思っている。
多様性が理解でき見分けられれば生きるのがもっと軽くなるような気もするが、個性のほうが多く光っていて未来を創る力があると思われているらしい。そのほうが分かりやすいかも、とも思う。
ただ好き嫌いでいうと、付き合うなら多様性を持つ人が面白いかなと。
改めて「クレイジーさやか」と呼ばれる(そうなのか初めて知ったけど)人が書く村田作品が好きなわけを考えてみた。
書かなかった小説
クローンロボットを4体買った。夏子ABCDと名付けた。コピーロボットでもそれぞれ違う個性がコピーされていて。
アラ、これは大混乱。
最後の展覧会
宇宙船が着陸した星にロボットが埋まっていた。聞いてみるとマツカタロボットという名でゲージュというらしいものを内蔵しているという。
ゲージュとはどういうものか。ミルトハナガサクラシイデス。ロボットが言ったが。
僕が預かったゲージュに似た概念を持つものを一緒に見せるテンランカイというものはどうかと話し合って招待状を作った。
この星はかつてチキューと呼ばれていて人間は滅びたらしい。ゲージュは生き続けてテンランカイはまだまだ続いている。ゲージュは生きているらしい。
「クレイジーさやか」読むとハナガサクラシイです。
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徹夜してでも読みたいという本に出会えるように、網を広げています。
たくさんのいい本に出合えますよう。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:0
- ISBN:9784163915500
- 発売日:2022年06月08日
- 価格:1320円
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