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献本書評
ときのき
レビュアー:
小気味よいクリスプな文体で畳みかける、現代台湾小説の佳品。 台湾の現在だけではなく、台湾人にとっての日本イメージがわかる一作でもある。
 映画監督・小説家の台湾人作家による短編集。
 収録された十の短編は、ほぼ全て、都会暮らしの2~30代の女性を主人公にしていて、彼女たちの恋愛にまつわるエピソードを軸に据え、にぎやかな台湾社会の現在を描いている。(例外は同名の中国の古典を下敷きにした奇譚『上海・新・桃花源記』)
 
 著者は巻末のあとがきで、「読者の方も物語からはこの年齢、この世代の、お馬鹿で衝動的で、どうしてよいかわからず不安そうで、頭がおかしくなるほど激しい気性の女の子の様子を読み取ることができるだろう」と語っているが、それかあらぬか各話の語り手は似通っていて、躁的に激しく早いテンポの文章がざっくばらんに性愛について、愛情について、異性について、結婚や出産やそれらにまつわる葛藤について語り、読者は感情の奔流そのもののような高密度高圧力の物語に吞み込まれる。
 
 登場する女性たちは感情豊かで行動力があり、自立した生活を営んでいる。恋愛に熱中することはあっても破滅型ではなく、荒馬を御するように自らの感情に手綱をつけ、恋人との関係がいかなる展開を辿りどういう結末に至ろうとも、それなりに楽しくたくましく生きていく。全体で200ぺージと、決して多くはないページ数に溢れんばかりに物語が盛り付けられた、かなりカロリーが高くその分読み応えもある小説集だ。

 また日本の読者にとって興味深いのは、一台湾人女性を通して語られる台湾と日本の距離感だろう。作中には日本の漫画のノベルティが出てきたり、テレビドラマを楽しむ場面がある。気軽な海外旅行先として京都や北海道が挙げられている。欧米の海外小説を読む際に出会う日本描写の少なくないものが、未だにエキゾチズムや揶揄を含んでいることを思うと、このもっと日常に密着した形で語られる“日本”は新鮮だ。本書に収められた短編のひとつも、著者の北海道旅行中に書き上げられたという。

 台湾の小説に触れたことのない人への入門編としても相応しい、今を生きる読者に向けて書かれた、読むと元気の出る小説だ。
 
 
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ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

読んで楽しい:6票
参考になる:22票
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