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三太郎さん
三太郎
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あの葛飾北斎晩年の人間模様を描いた、ちょっとくだけた調子の時代小説。
初めて読む作家さんだし、日頃から時代小説はほぼ読まないのだが、北斎の名前につられてつい手に取ってしまった。富嶽三十六景を出した後のことで北斎が70代前半、娘の応為が40歳の頃のお話だ。主人公は北斎ではなくて娘の応為(お栄)のようだった。

お話は、信州の豪商の御曹司の高井三九郎が、北斎の住む借家を訪ねてきて、娘のお栄と北斎の自称の弟子の善次郎に会うところから始まる。三九郎が江戸に来たのは北斎に弟子入りするためだという。

物語は三九郎の視点で語られるのだが、彼がお栄を大年増と呼ぶのには、ちょっと驚いた。今どきでは聞かない言葉だ。

善次郎は三九郎に北斎の偽物が書いた肉筆画が出回っていると告げる。その偽北斎を探すのを手伝えと言う。

ワ印、いわゆる春画の話題も出てくる。お栄が三九郎に語るにはワ印で男性器や女性器があり得ないほどに大きく描かれるのは、その部分をいかに詳細に描くのかに絵師の技量が示されるからだとか。僕は春画の実物を見たことはないが、現代のアダルトビデオにも通じる局部に対する即物的な関心というのが江戸時代にもあったということかな。

そんな時に善次郎と三九郎の二人は町で、奥州へ放逐されていた、北斎の孫の重太郎に出会う。重太郎が描いたと思われる、北斎の旧作を元にした春画に出てくる女は、お栄の姉、つまり重太郎の母親に似ているとお栄はいう。精神分析の題材にもなりそうな話だ。

所々でドタバタ喜劇が繰り広げられる。北斎、お栄、善次郎と三九郎の四人に重太郎がからんだドタバタは映画のマルクス兄弟のようにはいかないけれど、どこか乾いた笑いがある。

お話の終盤でお栄がある大店の依頼で描いていた肉筆の春画をみた北斎が、女の陰毛の描き方が下手くそだ、自分のをよく観察しろ、とお栄に言って自ら筆を入れるシーンがある。吉原の花魁と素人女では全然違うのだと。ずいぶんとくだけた雰囲気の時代小説だった。

北斎親娘が三九郎の郷里の小布施に行く約束をしたところで物語は終わりになる。

ところで、北斎の没後のお栄の消息については実はよく判っていないのだとか。小布施に留まって亡くなったとも、幕末まで生きたとも伝えられているらしい。その残された作品数もはっきりせずいまだ発掘中らしい。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:830 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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