N/A

N/A。Not Applicable。
作品の中には出てこない言葉です。
読了後、題名はこれしかないと思えました。

「低体重は月経が止まる危険性があります」
「将来のために過度なダイエットはやめましょう」

主人公はまどかです。
仲のよい友人や家族はまどか、まどちゃんと呼ぶのですが、
知り合いレベルの級友たちはみんな松井様。
中高一貫の女子高が舞台です。

呼び名はなにかのフラグだろうなと思って読み進めていくうち、
ちらちらと違和感がはさまれてくるのです。

うみちゃん。教育実習に来たOGで、女の国の中でも
飛び抜けて優秀な女の形を持ち、完璧な立ち振る舞いをする人です。
　──────　なかなか素敵な描写だと思いませんか？

うみちゃんに聞かれてIDを教えたら、突然インスタのDMが送られてきました。
会って話すと、私と付き合ったら絶対に面白いからと迫って来たのです。
そういえば、話す途中に顔のパーツがあちこちに分裂したり、
かと思いきや急に中心に集まって、
目の中で温泉卵の臭いが発酵し出すところがあって、
それは見覚えのある恋をしている人の様子なのです。
　──────　わたしはこのあたりですっかり掴まれてしまいました。

えっ、でもうみちゃんは女の人ではと、気になってきます。
その前の頁には、まどかが小学校のときの話で、
好きと言われた男の子を、仲のいい男の友だちとうまく分けて
接することができなかった経験について書かれています。

まどかの想像するかけがえのない他人は、重要度のヒエラルキーの
中にはいない特別枠だから、独占する必要も、嫉妬する必要もなかった。
一階席の順番がどう推移しようと、二階がある特別席が消えることは
ないのだ。

著者の価値観なのでしょうね。
SNSに小さい頃から接してきて、多様性の時代で差をつけない教育で育ち、
LGBTQは存在するという前提が体に刻み込まれている人です。

わたしは頭では理解できるのですが、こうして作品の中で表現されると、
新しい価値観を味わった気持ちになりました。
デフォルトの違いがあるといえばいいのかもしれません。

まだ若く、兼業の覆面作家さんです。
次作は未発表ですが、期待できますし、売れるといいなと思いました。
素晴らしい作品ですよ。