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ぽんきち
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キミはなぜ、何を求めて語学を学ぶのか?
著者は辺境ノンフィクション作家。そのポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。ノンフィクション作家というと、起きた事件の背景をコツコツと調べて真相に迫る、というタイプの人もいるが、著者のスタイルは、何か起きている、何か起きそうだ、という場所に飛び込んで、自らの目で見た現在進行形の出来事を綴る、いわば体当たりルポの側面が強い。世界各地で、あるときは幻獣を追い、あるときはアヘンを栽培し、あるときは謎の国家に潜入し、その顛末を書くわけである。
その過程で必要なものは何か、といえば、現地の言葉を話す能力である。その地の言葉を操れなければ、取材もままならない。
そうやって著者が学んできた言語は25以上というからすごい。
それほど多くの言葉を学んできたとなれば、人からは「語学の天才ですね」と言われる。だが著者自身がいうには、実像は天才からは程遠いという。
日本語以外で、一番話せる言葉は英語。それですらブロークンで、ネイティブのいうことがさっぱりわからないこともある。
そんな著者はどのようにして多くの言葉を学んで(その一方で忘れてきた)のか、というのが本書の内容である。

著者が語学を語るとき、切り離せないのは探検的作家活動と青春時代である。
ある意味、これは作家・高野秀行がどのように形成されてきたかの裏話ともいえる。だからもともと著者のファンであるという人には大変おもしろく読めるだろう。
また、人が語学を学ぶとき、「何」を求めてであるのかを考えさせる内容にもなっている。英語などだと「試験に出るから」「仕事で必要だから」と動機もわかりやすいが、さて、マイナー言語を学ぼうという時、人はなぜそれを学ぶのか。
さらには、語学を学ぶ上での著者の独特な勉強法というのもなかなかおもしろい。独特過ぎて、参考になるといえるかどうかは少々微妙だが、まぁ取り入れられると思う部分だけ取り入れればよいのだと思う。

インド篇、アフリカ篇、ヨーロッパ・南米篇、東南アジア篇、中国・ワ州篇と世界を縦横無尽に駆ける。
お堅い話ばかりではなく、随所で笑わせつつ、うーんなるほどという鋭い洞察もある。青春記でもあるので、若干のほろ苦さもある。
なるほどと思ったのは、著者がそもそも語学に目覚めたきっかけ。人間、窮地に追い込まれると火事場のバカ力的に能力が開花することがあるが、著者と語学との出会いもそれに近い。
探検が思うように進まず、鬱々としていた時に、隊のメンバーがそれぞれ、自身の存在意義を疑い、「アイデンティティ・クライシス」に陥る。とにかくほかのメンバーとの「差別化」を図るわけである。著者の場合はそれが「語学」だったというくだりは、何だかわかったようなわからないような話なのだが、妙に説得力がある。
言語にはそれぞれの<ノリ>があるというのも頷ける人が多いのではないだろうか。例えば中国語の語学テキストには往々にして天気の話が出てくるが、実は中国人は日常会話で天気のことを話題にすることはほぼないという。彼らは衣食住に関心があるため、「何を食べたか」等は聞いても「今日は良い天気ですね」といった会話はしない。短文をぽんぽんと並べる言語もあれば、語尾があいまいになる言語もある。その言語の<ノリ>がわかっていないと、文法的に間違ってはいなくても、通じないことだってあるわけだ。

本書のトリを飾るのは、中国・ワ州で、著者が何とワ語の教師になってしまう話。
ワ語が流暢にしゃべれるのかといえばそうではない。「お母さん」と「牛」を混同するくらい衝撃的(に酷い)能力なのだ。そんな彼がなぜ、ワ州の村で子供たちにワ語を教える羽目になってしまうのか。その捧腹絶倒の顛末は本書を読んでいただくとしよう。

エッセイとして読むもよし、語学勉強のヒントとするもよし、冒険譚として楽しむもよし。
「語学の天才」ってどんな人だろうか、とちょっと想像を巡らせてみたくなる。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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