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三太郎さん
三太郎
レビュアー:
40代の妻を癌で亡くした主人公は、癌で死ぬのは悪い死に方ではないと思う。
「人のセックスを笑うな」のレビューで著者のことをくさしてしまいましたが、第一作目を読んだだけでは申し訳ない気がして2016年に書かれた本作を手に取ってみました。

デビュー作に比べて肩の力が抜けているというか、書きたかったことが読者に真っすぐ伝わってくるような読後感があります。


語り手は保険会社に勤務する40代の男性で、妻も同い年だ。物語は桜が咲くころ、主人公が入院中の妻を見舞いに病院へ向かうところから始まる。夫婦には子供がなく、妻は小さなサンドイッチ店を経営している。

その妻に癌が見つかり、抗がん剤を用いて治療しているが体調は優れず、車いすでやっと病院内を移動するほどだ。病院の医師は病状については説明するが余命については一切触れない。夫はそのことを好ましく感じている。彼は妻がもう完治しないことは予想しているが、妻は死ぬために入院しているのではないと考えている。妻もおなじ気持ちだろうと彼は思う。

夫が勤務先の上司に妻の病状と今後の勤務について相談すると、介護休暇とテレワークを活用して妻を介護する時間を作ることを勧められた。すべての同僚が理解してくれた訳ではないが、上司の後押しが嬉しかった。


デビュー作でも本作でも主人公が男性なのには、著者に何らかの狙いがあるのでしょう。本作でも病に侵された妻が何を思ったかは読者には一切語られません。すべては主人公の目と耳を通して語られていきます。


夏になる頃には妻の病状が改善する見込みはなくなり、彼女は緩和ケア専門の病院に移った。抗がん剤をやめて鎮痛剤を投与するようになると、体調が良い日もあり、妻はサンドイッチ店でお世話になっているパン屋や農家の人たちとの面会も受けられるようになっていった。

病院内での医師や看護婦とのやり取りはリアルな感じがした。著者自身の体験が入っているのかも。医師から「延命治療」について尋ねられた主人公は、妻の両親がいるときに妻自身から医師に伝えることを選択した。妻の両親の世代は延命治療が当然だったが、妻は拒否するだろうと思ってのことだった。

臨終はあっけなく訪れた。夫は葬儀の席で妻にお焼香するのはまだ強い違和感があった。

葬儀には妻の知人友人よりも夫の会社関係者の方が多く、会社からの花輪が目立つことに主人公はいらだつのだが、これもよくありそうなことだ。

初めは妻が亡くなった実感がもてない主人公だったが、妻との距離が次第に広がっていき、一年が経ったころには妻の死を受け入れていた。妻のお墓の前で妻に語りかけるところで物語は終わりになる。


そして40代の妻を癌で亡くした主人公は、癌で死ぬのは悪い死に方ではないと思うようになりました。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:827 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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