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紅い芥子粒
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人を草とすると、草薙の剣とは、人にとってなんだろう。そんなことを考えながら読んだ。社会史のような小説だった。
民草とか人草という言葉がある。
民衆とか人民とか、ひろく人々をさしていうことば。
人は、つぎつぎと生まれ、地に満ちる。
大戦争や大災害でいためつけられても、根絶やしになることはない。
焼け野原や荒れ野にも、いつの間にか草は芽吹き、あっというまに茫々とした草原になる。

「草薙の剣」は、そういう草たちを描いた小説である。

『スーパーマーケットにいる夢を見た。』という一文から始まる。
その同じ夢を、六人の男性が見ている。
夢を見たのは2015年ごろで、昭生(62)、豊生(52)、常生(42)、夢生(32)、凪生(22)、凡生(12)。
この六人の物語なのかというと、そういうわけでもない。

昭和のはじめ、戦前から始まり、かれらの祖父や父の人生が長く語られる。
祖母や母、兄や姉の物語もある。
彼ら彼女らは名付けられることはなく、だれそれの父、だれそれの妻の母、という属性で語られるから、読んでいるうちに誰の話なのかわからなくなる。
それでもじゅうぶん面白いのは、人物の一人一人が、その時代の典型で、それはわたしのことだ、わたしの父と母のことだ、と思い当たってしまうことが多々あるからかもしれない。

民草の上を黒くおおっていた戦争が終わり、焼け跡の時代を経て、復興、好景気、バブル崩壊……と続く長い”戦後”の時代を、時代の波に翻弄されながらしぶとく生えている草たち。
そこに草薙の剣を持った、ヤマトタケルのようなヒーローはいない。
しかし、ヤマトタケルのように父に愛されたいと苦悩する少年は、いつの時代にもいる。

人を草とすると、草薙の剣とは、人にとってなんだろう……
そんなことを考えながら読んだ。
社会史のような小説だった。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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