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ぽんきち
レビュアー:
身近なようでわからないことの多い動物、それがタヌキ
著者は野生動物、特にタヌキの研究者。

タヌキは、日本に広く分布し、昔話などに出てくることも多い。ある意味、日本を代表する野生動物だが、実は生態や進化についてはわかっていないことが多い。アライグマやアナグマと混同されることもある。
本書は一般向けに、タヌキの基礎知識を整理し、提示しようというもの。
タヌキの生物学・進化学・国際学・化(ばけ)学・実学・総合科学の総覧である。

タヌキは意外に小さい。季節によって体重は変動するが、おおまかには成獣は4~5kg程度とみられる。食肉目イヌ科で、基本、イヌの仲間と思えばよい。走り・泳ぎ・登り・狩り・穴掘りと、一通りこなすが、どれもそこそこ。いわゆる「器用貧乏」的な能力である。
野生動物であることもあり、五感などの知覚の研究はあまり進んでいない。基礎研究が進めば、タヌキがなぜそのような行動をするのかといった認知行動学研究などにもつながるはずだが、まだその域ではないようだ。
タヌキはほぼ夜行性。若い個体だと昼間に活動することもあるが、昼はほぼ寝ている。
タヌキといえば「狸寝入り」と呼ばれる擬死状態があるが、その生理学的機構は不明である。
タヌキの交尾期は1月下旬から4月中頃まで。妊娠期間は二か月。ペアとなったタヌキは、ほぼ毎日一緒に行動する。タヌキの父親はマメに子育てに参加し、著者が観察した例では、母タヌキが事故死した後、父タヌキが1頭で子育てに奮戦していた例もあるという。

タヌキ属はイヌ科の中でも古い系統と見られ、歯列も祖先の形態と数を残しているといわれる。オオカミやキツネなどの仲間よりおそらく以前に分かれている。化石から見るとユーラシアに広く分布し、日本には人類よりも先に渡っていたようだ。
現代のタヌキを比較すると、日本のホンドタヌキと北欧のウスリータヌキは見た目がかなり異なる。北欧のものはより大きく、行動圏はより広く、脂肪蓄積量も多い。どちらも雑食だが、北欧のものが小型哺乳類などを捕食するのに比べ、日本のタヌキは昆虫などを食べる例が多い。中国で見られるタヌキの化石ですでに小柄化が見られており、日本に住むにあたり、環境に合わせた変化が見られたものと考えられる。

交通事故でひどいケガを負っても、治療を受け、人の隙をついて脱走したタヌキもいたという。おっとりしているように見えて、時にすばしこさやしたたかさを見せるタヌキ。そのあたりが「化かす」昔話の源となっているのかもしれない。

タヌキを語る本ではあるが、研究者としての著者の姿勢が色濃く出た本でもある。野生動物の研究がしたいと渡米し、大学院修了後は日本でタヌキの研究をすると決めて帰国した著者。野生動物に対する愛は深い。タヌキをもっと知りたい、という気持ちが随所に滲む。
時に害獣とされ、ヒトとの軋轢が生じるタヌキだが、著者の立ち位置はタヌキ寄りである。タヌキがヒトの居住区に侵出するというが、元はといえばヒトの方が森林を切り開き、彼らの居住区を奪っていったのではないか。ロードキル(動物が路上で殺されること、多くは交通事故による)も、元はなかった場所に道路が出来たために起こることである。人間に対する怒りがそこかしこに顔を出す。
挿絵も著者によるもの。加えて、著者自身使い手であるという空手の話や、昔話風の研究譚なども交えた、個性あふれるタヌキ本である。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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