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たけぞう
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書評をどう書いたらいいのか、深く考えるきっかけになった。
わたしは井上ひさしさんの信奉者です。天才だと思っています。新刊情報でこの著作を知り、著者のエッセーは久しぶりだったので喜んで手に取りました。
最高に楽しかったです。本著のテーマは、「読む」「ことば」です。未収録のエッセーを集めている人がいて、シリーズ1,2×三巻ずつの合計六冊発行されており、これはその中の一冊です。

第一章、読めば読むほど。評論と書評です。
第二章、推薦文百選。出版社のPR誌、内容見本、広告、帯などに書かれた三百点弱の推薦文の中から選ばれたものです。
第三章、ことば。大学時代の論文や、文庫の解説文などです。
第四章、ことばさまざま。「月刊ことば」から、数点収録されています。

白眉は、第二章の推薦文です。まあ、褒めること褒めること、その褒めかたも作品を読んだ感が伝わる本格的なものです。あとがきは奥さまによるものですが、まさにこの点についてのやり取りが書いてあるのです。
「あんなにほめるから期待して読んだのに、それほどでもなかった。ちゃんと批判もしてくれないと。ひさしさん、いくらタイコ持ちでも本より推薦文の方が面白いなんておかしいじゃん」
「でもね、書評を書く、本を紹介するということは人に読んでもらいたい、と思うから書くのであって、読まなくていい、と思うのもはけなす必要はないんだ。紹介しなければいいだけのこと。で、薦める以上は、その本のどこが面白いかを徹底して探すわけだよ」

井上ひさしさんは、対談などで厳しい意見を言ったり、特に権力を持っている相手に対しては遠慮しなかったりした人です。だから奥様と書評について語った意見を読んだわたしは、深く考えることになりました。

そもそも、推薦文百選はただ褒めているだけではない力強さがあり、本当に面白くて、読みたい気分がぐわっと上がってくる危険なものが勢ぞろいでした。
コツなのかもですが、推薦文の中で著者への感謝表現が多いことと、ダイレクトに誰それにお薦めしたいとか、面白いなどの伝わりやすい直情表現が目立つことに気がつきました。

自分のこれまでの書評の書きかたを思い起こしてみました。
最初は口語体で、感想文的なものが多く、合わない本の書評は書くことを避けていました。あるときから、合わない本でも理由を伝えて記録化することで、合う人に届くかもしれないと全て書評に残すように切り替えました。本当にいい本は賛否両論があると信じているからです。言葉遣いを丁寧語にしたり、その本を読むきっかけを入れたり、あらすじを早めに書いたりなど、試行錯誤を続けていまに至ります。

この本を読んだら頭がリセットされて、原点に立ち戻り考えることになりました。
たしかにいい本には賛否両論があるでしょう。それは間違いないです。でも、すべての人が賛成、反対にぱっきり分かれるとは限りません。読後、可もなく不可もなくという人がいるはずです。さらに、これから読む人はそもそも賛否なんてあるはずがないのです。

そうすると、読んでいない人に対して、例えば自分は合わないよとしっかり書き過ぎてしまうと、じゃあパスしようとなりかねないのですね。それは自分の望むことだろうかと考えたら、当然、否でした。
作品を多くの人が読み、多くの意見を聞きたいから書評に残すのです。それが書評の役割だと思うし、自分の望むことでもあります。だったら書きかたは考えた方がいいという結論に達したのでした。

なんだか、この本を読んでハードルが上がった感がありますが、考えさせてくれるきっかけをくれたことにまずは感謝しなければなりません。でも、自分に嘘をつくようなことは書けないわけで、そもそもタイコ持ち書評は文章のどこかににじみ出て見抜かれるので、悩みも深まりました。本を楽しむといっても、心理の動きを楽しむ人もいるし、展開力などのプロット重視の人もいるし、新しい考え方などの知識欲重視の人もいるわけです。だから、自分の意見はある一方向の切り口に過ぎないと気づき、頭の中がぐるぐると回り始めてしまいました。うまくいくか分かりませんが、これからも手探りで書評を書いていこうと思います。

こんなことが、こころに深く刻まれました。
天才井上ひさしの称号は、やはり間違っていなかったと強く思ったのであります。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

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