ぱせりさん
レビュアー:
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生身の人間たちと、姿のないものたちと。
その実体がはっきり書かれているわけではないのだけれど、亡くなった人の幽霊や、人ならぬものたちの気配を、そこかしこに感じる。(そういうことなんだろうな、と思いながら読む)
根深い恨みや、後悔などに縛られ、囚われているのは、生きている人間たちだ。
ちょっと不気味で、ときにぞっとすることがあるけれど、それは、生身の人間たちのしがらみ由来で、深入りすればするほどに、救いの望めない暗い場所に一人落ちていくような気がする。
それに比べたら、肉体をもたない霊たちは、解放されていて自由で、ときには朗らかなくらいではないか。
死後、人の身を離れて、生きた人たちの間を漂うものたちが、現世に心残りがあるとしたら、それは悔いや恨みではないのかもしれない。
人のまわりに留まっているそれらの気配は(これから生まれようとするものとともに)、生身の人間によりそい、手を差し伸べようとしているようにも思える。
それから、人から軽んぜられる人たち――言葉や行動が一人前とは見られないような人たちには、彼らだけが見ている(知っている)少しばかり輝かしい秘密がある事を、わたしも共犯らしくして黙っていよう。
本当は、あと味が悪い、と言うべき物語もあるのだけれど、そう言い切れないのは、そこに宿るのが、冷たいものばかりではなかった、と思えるせいだ。
目をやれば、まわりに控える美しい風景。息つまるような出来事が続いたあとには、何度も慰められる。
それは、決して特別な景色ではない。むしろありふれた風景とも思えるけれど、デ・ラ・メアの手にかかると、魔法がかかる。
たとえば、こんな風……。
「ハリエニシダの茂みには妖精たちの緑の館が隠れ、冒険好きな目を向ければ、腰の曲がった小人たちが耕地の畝をよたよたと伝い歩き、魔法にかかったコマドリたちが跳びはねる」
「長く続いたざわめきも夕闇に衰える陽光もろとも静かに消えた――山向こうの低い浜辺で、あの世からの波が静かに砕けたように――ひっそりとした中で、時そのものがため息をついたようだ」
随所に豊富に配されたエドワード・ゴーリーのペン画もよかった。(独特の気配。あの暗がりにきっと何かいるにちがいない……)
この本には七つの短編が収められているが、トリを務めるのが、大好きな『ルーシー』なのがうれしい。ふくふくと満たされて本を閉じた。
根深い恨みや、後悔などに縛られ、囚われているのは、生きている人間たちだ。
ちょっと不気味で、ときにぞっとすることがあるけれど、それは、生身の人間たちのしがらみ由来で、深入りすればするほどに、救いの望めない暗い場所に一人落ちていくような気がする。
それに比べたら、肉体をもたない霊たちは、解放されていて自由で、ときには朗らかなくらいではないか。
死後、人の身を離れて、生きた人たちの間を漂うものたちが、現世に心残りがあるとしたら、それは悔いや恨みではないのかもしれない。
人のまわりに留まっているそれらの気配は(これから生まれようとするものとともに)、生身の人間によりそい、手を差し伸べようとしているようにも思える。
それから、人から軽んぜられる人たち――言葉や行動が一人前とは見られないような人たちには、彼らだけが見ている(知っている)少しばかり輝かしい秘密がある事を、わたしも共犯らしくして黙っていよう。
本当は、あと味が悪い、と言うべき物語もあるのだけれど、そう言い切れないのは、そこに宿るのが、冷たいものばかりではなかった、と思えるせいだ。
目をやれば、まわりに控える美しい風景。息つまるような出来事が続いたあとには、何度も慰められる。
それは、決して特別な景色ではない。むしろありふれた風景とも思えるけれど、デ・ラ・メアの手にかかると、魔法がかかる。
たとえば、こんな風……。
「ハリエニシダの茂みには妖精たちの緑の館が隠れ、冒険好きな目を向ければ、腰の曲がった小人たちが耕地の畝をよたよたと伝い歩き、魔法にかかったコマドリたちが跳びはねる」
「長く続いたざわめきも夕闇に衰える陽光もろとも静かに消えた――山向こうの低い浜辺で、あの世からの波が静かに砕けたように――ひっそりとした中で、時そのものがため息をついたようだ」
随所に豊富に配されたエドワード・ゴーリーのペン画もよかった。(独特の気配。あの暗がりにきっと何かいるにちがいない……)
この本には七つの短編が収められているが、トリを務めるのが、大好きな『ルーシー』なのがうれしい。ふくふくと満たされて本を閉じた。
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
この書評へのコメント

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- 出版社:白水社
- ページ数:0
- ISBN:9784560072417
- 発売日:2022年09月03日
- 価格:1980円
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