三太郎さん
レビュアー:
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先月末にオースターが亡くなったというニュースを聞き、彼の晩年の二作品をまとめて読んでみた。
60歳になったポール・オースターが自分の20年後を想定して書いたのが写字室の旅だとか。この小説は著者の分身のような老人が、彼がかつて作り出した小説の登場人物によって責めさいなまれるような妄想に襲われる、という話の様に読める。彼の若い頃の作品の登場人物の名前が次々に挙がってくる。
老人が朝目覚めると、どこか分からない部屋に隔離されており、24時間カメラで監視されている。老人は既に認知症が進んでいるらしく、自分の名前も、自分が作家だったという過去も、彼に会いに来た人物の顔や名前も覚えていない。
歩くのも覚束なく、部屋の隅のトイレに行くまでに失禁してしまう。でも男性機能はまだ正常で勃起し射精までできるというのは、さすがポール・オースターだと感心?してしまった。
面会に来た弁護士はクインと名乗ったが、その名前はオースターの初期の作品「ガラスの街」の主人公の名前である。その彼は老人のかつての部下で彼のために工作員の仕事をしたのだという。
弁護士によれば、老人は各方面から様々な訴訟を起こされている。その中にはベンジャミン・サックスの爆死事件も含まれている。サックスは「リバイアサン」に登場する「自由の怪人」の名前であった。
老人は机の上にファンショーという作家の書いた「写字室の旅」という原稿を見つけるが、ファンショーが老人の書いた作品「鍵の掛かった部屋」の登場人物だとは気が付かない。
60歳の著者が足腰が弱って認知症が進んでしまった将来の自分を想像して書いた小説ということだろうか。作者が亡くなったときまだ77歳だったはずで、ここまでは老化していなかったろうと思うが、老化は誰にも避けられない将来ではある。
二作目の「闇の中の男」はその一年後に発表された作品だ。主人公は70代の引退した作家で、不眠症に悩まされている。その彼が夜の闇の中で空想した物語が前半の中心だ。その物語では手品師の男がもう一つのアメリカ(パラレルワールド)に攫われて、主人公の作家を暗殺するように強要される。その世界では9.11のテロ以降にニューヨーク州を中心に東部の諸州が合衆国から離脱し独立を宣言して、合衆国軍と内戦状態になり、すでに百万人を超えるアメリカ人が殺されていた。
そして作家の生きる現実のアメリカではイラク戦争が進行中で、作家の孫娘の夫が軍事請負会社に雇われ、イラクで惨殺されている。アメリカ人にとっては国外の戦争ではあるが、戦争の残忍さはアメリカ人も逃れられない。
著者は死ぬタイミングを誤ったかもしれない。この2,3年の状況は戦争の悲惨さが増しこそすれ、良い方向に向かう兆候は何もない。
小説中の言葉を借りれば、このけったいな世界は、それでも転がって行かざるを得ない。
老人が朝目覚めると、どこか分からない部屋に隔離されており、24時間カメラで監視されている。老人は既に認知症が進んでいるらしく、自分の名前も、自分が作家だったという過去も、彼に会いに来た人物の顔や名前も覚えていない。
歩くのも覚束なく、部屋の隅のトイレに行くまでに失禁してしまう。でも男性機能はまだ正常で勃起し射精までできるというのは、さすがポール・オースターだと感心?してしまった。
面会に来た弁護士はクインと名乗ったが、その名前はオースターの初期の作品「ガラスの街」の主人公の名前である。その彼は老人のかつての部下で彼のために工作員の仕事をしたのだという。
弁護士によれば、老人は各方面から様々な訴訟を起こされている。その中にはベンジャミン・サックスの爆死事件も含まれている。サックスは「リバイアサン」に登場する「自由の怪人」の名前であった。
老人は机の上にファンショーという作家の書いた「写字室の旅」という原稿を見つけるが、ファンショーが老人の書いた作品「鍵の掛かった部屋」の登場人物だとは気が付かない。
60歳の著者が足腰が弱って認知症が進んでしまった将来の自分を想像して書いた小説ということだろうか。作者が亡くなったときまだ77歳だったはずで、ここまでは老化していなかったろうと思うが、老化は誰にも避けられない将来ではある。
二作目の「闇の中の男」はその一年後に発表された作品だ。主人公は70代の引退した作家で、不眠症に悩まされている。その彼が夜の闇の中で空想した物語が前半の中心だ。その物語では手品師の男がもう一つのアメリカ(パラレルワールド)に攫われて、主人公の作家を暗殺するように強要される。その世界では9.11のテロ以降にニューヨーク州を中心に東部の諸州が合衆国から離脱し独立を宣言して、合衆国軍と内戦状態になり、すでに百万人を超えるアメリカ人が殺されていた。
そして作家の生きる現実のアメリカではイラク戦争が進行中で、作家の孫娘の夫が軍事請負会社に雇われ、イラクで惨殺されている。アメリカ人にとっては国外の戦争ではあるが、戦争の残忍さはアメリカ人も逃れられない。
著者は死ぬタイミングを誤ったかもしれない。この2,3年の状況は戦争の悲惨さが増しこそすれ、良い方向に向かう兆候は何もない。
小説中の言葉を借りれば、このけったいな世界は、それでも転がって行かざるを得ない。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784102451182
- 発売日:2022年08月29日
- 価格:880円
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