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ゆうちゃん
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第二巻から20年おいて刊行されたヴァン・ドゥーゼン教授の探偵譚の第三巻。作品レベルはばらつくが、20年もおいての三巻目の刊行に出版社の良心を感じる。
思考機械ことヴァン・ドゥーゼン教授を探偵とする中短編集の第三弾。本書は第二巻から約20年の歳月を置いて刊行された。創元社の「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」と銘打って色々な探偵を主人公にした短編集が刊行されたが、2巻まで出たのは「ソーンダイク博士」とこの思考機械だけであり、20年置いてはいるが3巻目が登場したのはこの思考機械シリーズだけである。きっと好評で根強いファンがいるのであろう。

本書は6編の短編と150頁となる「金の皿盗難事件」という中編が掲載されている。この第3巻を読むと、ストランド誌に登場した後はずっとこの雑誌に掲載されていたホームズものと異なり、ヴァン・ドゥーゼン教授シリーズは、色々な雑誌に登場し、都度キャラクター紹介があったようだ。「消えた女優」事件は、劇場から失踪した女優の謎を追う事件だが、イギリスの「キャッセルッズ・マガジン」に初登場ということで、創元の第1巻の冒頭の短編と同じようにヴァン・ドゥーゼン教授の紹介と逸話(チェスのプロに1日だけ指導を受けただけで世界チャンピオンを破った話)がある。
実は中編の「金の皿盗難事件」は、著者が最初に書いた小説とのこと。この小説は、3部構成で、第1部はある仮面舞踏会で発覚した金の皿盗難事件、第2部は、その盗難事件に巻き込まれた仮面舞踏会の出席者で若い女性であるドロシー・メレディスの事件後の顛末と事件を追う新聞記者ハッチの様子、第3部はハッチがヴァン・ドゥーゼン教授に事件を相談し解明するという構成である。ヴァン・ドゥーゼン教授の登場は最後で、全体の三分の二は事件の経過に宛てられており、その間、ヴァン・ドゥーゼン教授は全く登場しない。著者は、もしかしたら単発の推理譚を書いただけなのかもしれない。プロットは、顔を隠す仮面舞踏会での盗難であること、その舞踏会で駆け落ちを計画していたドロシーが、仮面舞踏会であるが故に、金の皿の盗賊と駆け落ち相手を間違えたこと、事件関係者の奇妙な人間関係の解明である。ヴァン・ドゥーゼン教授の犯人割り出しは非常に科学的でそこに異論はないが、プロット全体が稀な偶然に頼っており、作品のレベルとしてはちょっと残念な感じである。
他の短編について触れると、「ロズウェルのティアラ」事件は密室の盗難、「緑の目の怪物」は夫人の奇妙な行動に対する夫の苦しみ、「タクシーの相客」もパーティーでの盗難、「絵葉書の謎」と「壊れたブレスレット」はフットレルお得意の暗号事件である。この短編の中に殺人事件がないのが特徴といえるかもしれない。
このうち注目すべきは、「絵葉書の謎」でこれは第一巻の「消えた首飾り」の後日譚となっている(思考機械ファンでないとあまり意味が無いかもしれないが)。「緑の目の怪物」は、蓋を開けてみれば事件にもならない逸話であり、ホームズの初期短編集にある「失踪した花婿」とか「ねじれた唇」のような逸話を意識したものかもしれない。学問に打ち込み、人間関係にわき目もふらない独身の優秀な科学者であるヴァン・ドゥーゼン教授の夫婦論が微笑ましい。
巻末に解説者の考察があるが、事件は新聞記者でありヴァン・ドゥーゼン教授の助手/調査員ともいえるハッチが持ち込むものが大半である。しかし、幾つかの短編は依頼者が事件をヴァン・ドゥーゼン教授に直接持ち込んでいる(因みにヴァン・ドゥーゼン教授は探偵を自称したことはなく、学問の余技として謎解きをするだけである)。そのパターンでは、依頼者の多くが腹に一物ある人物であると解説にあったが、まさにその通り。実は、これはパイヤールの「シャーロック・ホームズの誤謬」にある探偵論に通じるところで、小説中のある人物が語ることが真実(語り手の言う通り)なのか?という問題提起をしている。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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