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Wings to fly
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その本は、本を愛する人へ宛てて書かれた物語なのであった。
本という「形」と、その「中身」を、たいへん楽しく鑑賞した。目が見えなくなった王様の命令を受け、又吉氏とヨシタケ氏にそっくりな二人の男がめずらしい本を探しに行く。一年間の旅を終えて戻った二人が「その本」の話を、十三の夜ごとに交替で王様に話して聞かせるという内容である。

又吉氏に似た男のパートは(ネタ的なショートストーリーも含め)小説であり、ヨシタケ氏に似た男のパートはイラスト主体の絵本である。著者おふたりが確固たる自分の世界をお持ちなので、一冊の中に二つの強烈な個性が混在しているわけだが、違和感がない。お酢とサラダ油を結び付けて滑らかなマヨネーズに仕上げる卵のように、「本」というキーワードが乳化剤となっているためであろう。

ユーモア溢れる楽しさと、胸打つ切なさが共存している。どの話もたいへん読みやすいため、普段あまり読書をしない人でも楽しめると思う。しかし、これは絶対に「本を愛する人」へ宛てた物語だと思った。

第五夜で又吉氏は語る。「その本はボロボロである。」
だけど、その本は幸せだった。その本は、そこに書かれている物語とまたべつの、もうひとつの物語を持っていたから。その、もうひとつの物語には「人生の大切な一冊に出会う幸福」が描かれる。

第六夜でヨシタケ氏は語る。「その本は、志半ばにして叶わなかった夢の話がたくさん書いてある。」
父が作ろうとし、私が完成させ、世に出したその本。たくさんの人々を救ったその本の物語には、時を超えてメッセージを伝える本の「力」が描かれる。

最後に用意されたオチにも、物語を生み出す「想像の翼」というテーマが、笑いの中に顔をのぞかせる。

羊皮紙をイメージした作りになっていて、ページの周辺が茶色く日焼けしシミもある。古の王国で作られて年代を経た書物の雰囲気だ。この魅惑の技は、紙の本にしか出来ないことである。こういう風に丸ごと味わえる本を作ろうって思いついた人(編集者さん?)は天才だ。もしかしたら、この本を作った人たちは、読者よりも楽しい思いをしたかもしれない。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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