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ぽんきち
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聖か邪か。ある時は神、ある時は怪物として語られてきた生物の総覧。圧巻。
ヘビというのは不思議な生き物だ。
四肢はなく、静かに忍び寄る。チロチロ動く舌。何を考えているかわからない眼。
ヘビに忌避感を持つ人は少なくないだろう。だが一方で、ヘビ柄はファッションに取り入れられ市民権を得ている。
古来、ヘビは神話や説話に多く取り入れられ、ある時は神であり、ある時は人と敵対する怪物であった。
本書ではこうしたヘビのうち、旧蛇類と呼ばれるボアやパイソン、一般に「大蛇」として知られるものを紹介する。

本書の大部分、7割程度は図鑑である。
こうした大蛇は日本には生息しないことを思うと、この手の本が翻訳書でなく初めから和書として出るのはなかなかすごいことなのではないだろうか。
大半の写真は自然界の姿を写しているというのも恐れ入る。
蛍光色のように色鮮やかであったり、いわゆるヘビ斑があったり、多種多様な大蛇の姿がこれでもかと続く。
ヘビの中には色素ではなく構造色を持つものもいてなかなか興味深い。
ただ単なるヘビの写真集ではなく、分類学的に整理されており、形態の記述も学術的である。分布の地図も付される。

図鑑以外の読み物部分も充実している。
身体の構造や解剖、各部の名称やしくみなど。例えば、頭部の鱗は7、8種に分けられ、それぞれ名称がついている。
ニシキヘビやマムシの仲間には、赤外線を検出して熱源を感知するピット器官を持つものがいる。これで暗闇でも獲物を捕らえられるわけだ。赤外線の伝達に関与する受容体タンパク質(TRPA1)は、おもしろいことに、昆虫から哺乳類までが備えるもので、熱や刺激物で活性化される。ヒトではワサビに反応するため、ワサビ受容体として知られているようだ。

大蛇の中には単為生殖するものもいるという。有性生殖を行うことがない絶対単為生殖と、有性生殖も行うがときおり単為生殖を行う条件的単為生殖の2種類があり、大蛇では両方が確認されている。

自然界でもさまざまな形態・色彩が知られている大蛇だが、人為的に掛け合わせて珍しいものを作出する世界もある。ニシキヘビの中には不完全顕性といった複雑な遺伝形式を持つものがあり、掛け合わせ次第で予想を超えた色彩や形態のものが生まれることがある。珍しいものだと値も吊り上がり、一時は投機目的のバブルもあったそうである。
現在では比較的落ち着いた趣味の世界になっているようだ。

ヘビというと毒を持つものもいるが、大蛇の場合、捕食の際には獲物に巻き付き、締め付けて絶命させるか、または生きたまま飲み込む形をとる。
大蛇によるヒトの死亡事故はそれほど多くはない。成人男性を殺すのは、相当の大きさでないと大蛇にとっても困難である。だが乳幼児や子供の場合は成人よりも危険である。
死亡まで行かなくとも、襲われる例はそれなりにある。多くは、大蛇が自衛しようとした場合、また興奮状態にある場合である。毒のない大蛇の場合は、首に巻き付かれるなどしなければ、死亡する可能性はそれほど高くはないが、十分な注意は必要である。

ヘビに関わる神話が古今東西に存在するのは、人々がヘビを恐れつつも魅かれてきた証だろう。
古代ギリシャのウロボロス、北欧神話のヨルムンガンド、アステカのケツァルコルトル。ヒンドゥー教ではヘビは世界を取り巻き、インドでは世界の創世に関わるとされた。
大蛇がいない日本でもヤマタノオロチとして現れる。
アフリカのある種族は虹をヘビに見立て、虹の行きつくところに水があり、ヘビはこれを飲んで水を蓄えていると考えている。日照りが続くと虹(=ヘビ)に対して雨乞いを行う。壮大で美しい伝説である。

全ページ、是ヘビ。
もちろん、ヘビ嫌いの方にはお勧めしないが、壮観である。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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