レビュアー:
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人の気持ちを読み取るのは苦手だが、論理的思考能力は抜群。自閉スペクトラム症の勇気ある少年を探偵役に据えた、爽やかなミステリ。
ミステリ作品に必要な条件として、「手がかりの全てが読者に提示されていなければならない」というのがある。本書はこれを完璧に満たした本格ミステリであり、子どもたちの悩みと成長を愛情こめて描いたYA小説である。両親など大人の登場人物たちも魅力的で、12歳の名探偵テッドが事実と論理を積み重ねて辿り着く結論の意外性も面白い。そして、最高に爽やかな読後感を連れてくる。
巨大観覧車ロンドン・アイに乗るため、テッドは姉といとこのサリムの3人で長い列に並んでいた。そこへ見知らぬ男が話しかけてきて、チケットを1枚譲ってくれた。テッドと姉のカットは、もうすぐニューヨークへ旅立つサリムにチケットを渡し観覧車へ送り出す。だが、一周して戻ってきた観覧車のカプセルの中にサリムの姿はなかった。サリムは、どこへ、なぜ、どうやって消えてしまったのか。
テッドは、この失踪の謎を姉のカットとともに解き明かしてゆく。ユニークなのは、探偵役のテッドが「ほかの人とはちがう仕組みで動く」脳の持ち主だということだ。身振りや暗示的な言葉から人の感情を読み取ることが苦手。得意なのは物事の仕組みや事実について考えることで、将来は気象学者になろうと思っている。
テッド本人が「症候群」と呼んでいるのは、「自閉スペクトラム症」(アスペルガー症候群)のことだ。他者の気持ちを察すること、空気を読むことが出来ない。だから感情に流されず、非常に論理的である。嘘がつけず潔癖症で、正直な気持ちを時と場所を選ばず披露してしまう。それらは時々家族の心をかき乱し、家族を困惑させる自分にテッドは悲しむ。
だが、テッドの3人しかいない友だちのひとりは先生で(あとのふたりはパパとママ)、「そういう時は(可笑しくなくても)一緒に笑った方がいいんだよ。」などと、コミュニケーションの方法への具体的な助言をくれたりする。周囲の人々の言動をしっかり見ているテッドの人間観察力もたいしたものだ。たまに生きづらさを感じても、彼は一生懸命にコミュニケーションを交わして人と関わり、自分自身を成長させていく。
テッドの個性的かつ秀逸なアプローチにより謎はすべて解かれ、みんなの心は事件の前よりも通い合う。人間同士のごまかしのない向き合い方を見事に描いた作品だと思う。ぶつかり合っても愛を失わない家族の情景が、温かな作品世界を作り出している。
作者シヴォーン・ダウドは、数少なくとも深く心に残る作品を生み出し、本書の発表後に亡くなった。もっとあなたの作品が読みたかったと、心から思う。
シヴォーン・ダウド作品の書評
『ボグ・チャイルド』
『怪物はささやく』(パトリック・ネス作/シヴォーン・ダウド原案)
巨大観覧車ロンドン・アイに乗るため、テッドは姉といとこのサリムの3人で長い列に並んでいた。そこへ見知らぬ男が話しかけてきて、チケットを1枚譲ってくれた。テッドと姉のカットは、もうすぐニューヨークへ旅立つサリムにチケットを渡し観覧車へ送り出す。だが、一周して戻ってきた観覧車のカプセルの中にサリムの姿はなかった。サリムは、どこへ、なぜ、どうやって消えてしまったのか。
テッドは、この失踪の謎を姉のカットとともに解き明かしてゆく。ユニークなのは、探偵役のテッドが「ほかの人とはちがう仕組みで動く」脳の持ち主だということだ。身振りや暗示的な言葉から人の感情を読み取ることが苦手。得意なのは物事の仕組みや事実について考えることで、将来は気象学者になろうと思っている。
テッド本人が「症候群」と呼んでいるのは、「自閉スペクトラム症」(アスペルガー症候群)のことだ。他者の気持ちを察すること、空気を読むことが出来ない。だから感情に流されず、非常に論理的である。嘘がつけず潔癖症で、正直な気持ちを時と場所を選ばず披露してしまう。それらは時々家族の心をかき乱し、家族を困惑させる自分にテッドは悲しむ。
だが、テッドの3人しかいない友だちのひとりは先生で(あとのふたりはパパとママ)、「そういう時は(可笑しくなくても)一緒に笑った方がいいんだよ。」などと、コミュニケーションの方法への具体的な助言をくれたりする。周囲の人々の言動をしっかり見ているテッドの人間観察力もたいしたものだ。たまに生きづらさを感じても、彼は一生懸命にコミュニケーションを交わして人と関わり、自分自身を成長させていく。
テッドの個性的かつ秀逸なアプローチにより謎はすべて解かれ、みんなの心は事件の前よりも通い合う。人間同士のごまかしのない向き合い方を見事に描いた作品だと思う。ぶつかり合っても愛を失わない家族の情景が、温かな作品世界を作り出している。
作者シヴォーン・ダウドは、数少なくとも深く心に残る作品を生み出し、本書の発表後に亡くなった。もっとあなたの作品が読みたかったと、心から思う。
シヴォーン・ダウド作品の書評
『ボグ・チャイルド』
『怪物はささやく』(パトリック・ネス作/シヴォーン・ダウド原案)
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
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- 出版社:
- ページ数:0
- ISBN:9784488011161
- 発売日:2022年07月12日
- 価格:2090円
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