休蔵さん
レビュアー:
▼
自然への畏敬の念が形として残った遺跡の紹介。考古学の成果のなかでもあまり報道されることのない分野で、新鮮な面白みもありました。
古来、人々は自然物をカミあるいはカミの依り代として祭祀の対象としてきた。
山そのものということもあれば、御神木と称して巨木そのものを祀ることもある。
そして、巨岩を磐座とみなして祭祀の対象としてきた。
しかしながら、それらの実態は分からないことが多い。
本書が取り扱う静岡県浜松市の天白磐座遺跡は、巨岩祭祀遺跡に発掘調査のメスが入れられた稀有な事例のひとつである。
天白磐座遺跡は、浜名湖へ流下する河川を見下ろす尾根上にある巨岩群である。
遺跡発見の発端は、著者が学生を連れた踏査である。
もともと渭伊神社内境内に巨岩があることを知っていた著者は、その場で磐座祭祀や古代祭祀の説明をすることにした。
その説明のさなか、学生が土器を発見。
それが古墳時代にまで遡ることが分かり、発掘調査に進展することに。
発掘調査では古墳時代前期から平安時代後期に及ぶ磐座祭祀や経塚信仰の様相が明らかになっている。
本書は磐座祭祀遺跡の発掘調査成果を披露するだけではない。
古墳時代全般の遺物が出土していることから、周辺の古墳についても詳細な分析を平易に解説している。
付近にある首長墳は明確な一系統で繋がったもので、従属するだろう人々も小規模円墳も多く見つかっている。
前方後円墳や前方後方墳、造り出し付円墳に埋葬された首長たちこそ、天白磐座遺跡で祭祀を挙行したと推察されている。
祭祀は奈良時代の土馬を用いた祭祀に継続し、末法思想がひろがった平安時代には経塚祭祀が行われた。
巨岩のヒビの間からは、現代のゴミの下方から経筒の破片が見つかっているから驚きだ。
自然を恐れる精神は今も変わらない。
毎年のように発生する自然災害は、発達した文明社会を生きる私たちの無力さを痛感させる。
ハード面で対策しつつ、神頼みの対応はいまだに無くならない。
ただ、自然への畏敬の念が薄れつつあるのも事実だろう。
大規模開発は繰り返し実施され、列島はどれだけ改造されたことだろう。
それをやむなしと受け入れるのは、やはり自然への畏敬が減じているからにほからなない。
本書は、古代の祭祀遺跡の調査成果の概説に過ぎない。
祭祀遺跡の重要性や面白さは実感できるが、自然への畏敬の念まで理解することは難しいだろう。
でも、そこまで読み込む姿勢は大切にしたい。
なぜ巨岩を対象に祭祀を行ったのか、その具体を本書は記しているが、類似遺跡のすべてに同様の理由は当てはまらないだろう。
各地にある磐座を訪れることで、個別の念を感じることができるかもしれない。
著者は、調査中の風の爽やかさや蚊に襲われないことの意味にも思いを巡らせている。
この姿勢こそが、本書から読み取るべき最大の知恵なのかもしれない
山そのものということもあれば、御神木と称して巨木そのものを祀ることもある。
そして、巨岩を磐座とみなして祭祀の対象としてきた。
しかしながら、それらの実態は分からないことが多い。
本書が取り扱う静岡県浜松市の天白磐座遺跡は、巨岩祭祀遺跡に発掘調査のメスが入れられた稀有な事例のひとつである。
天白磐座遺跡は、浜名湖へ流下する河川を見下ろす尾根上にある巨岩群である。
遺跡発見の発端は、著者が学生を連れた踏査である。
もともと渭伊神社内境内に巨岩があることを知っていた著者は、その場で磐座祭祀や古代祭祀の説明をすることにした。
その説明のさなか、学生が土器を発見。
それが古墳時代にまで遡ることが分かり、発掘調査に進展することに。
発掘調査では古墳時代前期から平安時代後期に及ぶ磐座祭祀や経塚信仰の様相が明らかになっている。
本書は磐座祭祀遺跡の発掘調査成果を披露するだけではない。
古墳時代全般の遺物が出土していることから、周辺の古墳についても詳細な分析を平易に解説している。
付近にある首長墳は明確な一系統で繋がったもので、従属するだろう人々も小規模円墳も多く見つかっている。
前方後円墳や前方後方墳、造り出し付円墳に埋葬された首長たちこそ、天白磐座遺跡で祭祀を挙行したと推察されている。
祭祀は奈良時代の土馬を用いた祭祀に継続し、末法思想がひろがった平安時代には経塚祭祀が行われた。
巨岩のヒビの間からは、現代のゴミの下方から経筒の破片が見つかっているから驚きだ。
自然を恐れる精神は今も変わらない。
毎年のように発生する自然災害は、発達した文明社会を生きる私たちの無力さを痛感させる。
ハード面で対策しつつ、神頼みの対応はいまだに無くならない。
ただ、自然への畏敬の念が薄れつつあるのも事実だろう。
大規模開発は繰り返し実施され、列島はどれだけ改造されたことだろう。
それをやむなしと受け入れるのは、やはり自然への畏敬が減じているからにほからなない。
本書は、古代の祭祀遺跡の調査成果の概説に過ぎない。
祭祀遺跡の重要性や面白さは実感できるが、自然への畏敬の念まで理解することは難しいだろう。
でも、そこまで読み込む姿勢は大切にしたい。
なぜ巨岩を対象に祭祀を行ったのか、その具体を本書は記しているが、類似遺跡のすべてに同様の理由は当てはまらないだろう。
各地にある磐座を訪れることで、個別の念を感じることができるかもしれない。
著者は、調査中の風の爽やかさや蚊に襲われないことの意味にも思いを巡らせている。
この姿勢こそが、本書から読み取るべき最大の知恵なのかもしれない
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
- この書評の得票合計:
- 34票
素晴らしい洞察: | 1票 | |
---|---|---|
参考になる: | 33票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント
コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新泉社
- ページ数:0
- ISBN:9784787707338
- 発売日:2006年12月01日
- 価格:1650円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。