書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

たけぞう
レビュアー:
ホラーではない恒川作品。
どの作品も物語の展開が魅力的で、新作が出ると読んでしまう作家さんです。
初期の頃の作品にはホラーが多いのですが、怖がらせるというよりも
妖の時代の郷愁を誘うノスタルジックホラーなので、
怖い系が苦手な人も作品を読めるのが特徴の作家さんです。

金色機械という作品があります。
スターウォーズに出てくるC3POみたいなものが登場するのですが、
著者はこの頃からホラー以外のジャンルにも作風を広げていて、
RPGのゲーム世界的な作品もあります。
この作品はRPG的な要素が結構あり、ホラーの雰囲気はありません。

全六話の短篇と、物語の断片という四本のつなぎの章で構成されています。
作品どうしがゆるくつながっているので、ひょっとしたら最初は
単独作品で書いたものを、つぎ足しながら世界を広げたのかもしれません。
一話目の箱庭の巡礼者たちという話の展開から、そのように考えました。
この世界はどこかで異世界とつながっているという考えが
物語の底流にありますので。

わたしは、一つの大きな世界というよりも、個々の作品がまとまっているので
それぞれ楽しめるという印象でした。

箱庭の巡礼者たちは、主人公のぼくが洪水災害の瓦礫の中から
大きな黒い箱を見つけ、家に持ち帰るところから物語が始まります。
何が入っているのかと蓋を開けます。
そこにはジオラマがありました。でも、何か変なのです。
だって、ジオラマの中で人が動いていたのですから。

母は洪水で亡くなりました。
ところがぼくは、ジオラマの中で母に似た女性を見つけたのです。
箱の中は死後の世界なのかと、ぼくは混乱します。
そして箱の観察を続けます。

箱の中には、城に住む人たちと町の人たちがいます。
あるとき事件が起こります。
上から見ている僕には丸わかりなのですが、
箱の人たちは気がついておらず、ぼくは気になりだします。
人間が神様の立場になったらという物語なのかなと思いつつ
頁をめくります。

ぼくのところに、家庭不和の同級生女子が来るようになり、
物語が動き始めます。家族内の不満のはけ口にされるという
理不尽な扱いを受けていて、家にいるのが嫌という人でした。
だって、女の子なのに家族の殴られ役ですから。ひどいものです。

その子の前で箱を開けたとき、なかのジオラマが見えると言ったので
ぼくは嬉しくなります。父には見えなかったので、
特別なものだと知っていたのです。
しかし内向的なぼくと違って、その子は積極的でした。
その子は、一歩踏み出して冒険譚を繰り広げていったのです。

その子の冒険が面白いなという感覚と、ぼくの小さな世界の観察者という
縮こまり感が、何ともいえない微妙なバランスで、
複雑な気持ちになりました。
読ませる力のある作品です。ほかの作品も面白く読めます。
エンターテインメントの王道ですね。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

読んで楽しい:5票
参考になる:23票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『箱庭の巡礼者たち』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ