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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
日本中に数多くの遺跡があり、それぞれにドラマがあるはず。本書は御所野遺跡という縄文ムラを掘り下げに掘り下げた1冊。写真がふんだんで、説明も分かりやすく、楽しい仕上がりです。
 2021年、「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界文化遺産に登録された。
 17の考古遺跡で構成されたもので、本書が概説する岩手県一戸町の御所野遺跡もその1つだ。
 本書は、御所野遺跡における縄文人たちの生活のありさまを、詳細かつ分かりやすくまとめた1冊である。

 御所野遺跡は縄文時代の遺跡だから、当然、縄文土器が出土する。
 縄文土器は、時期的、地域的流行があるようだが、御所野遺跡では北海道南部から東北地方北部に分布する土器と東北地方南部に分布する土器の両方が出土し、さらに両土器の折衷的な特徴の土器もあるという。
 土器から人事交流のあり方が見えてくるようだ。
 また、土器の材料である粘土を採掘した穴も見つかっている。
 この粘土と同じ質の粘土で土器作り体験も実施され、7,000点以上の現代縄文土器が焼かれているそうだ。
 それもほとんど失敗することなく。
 よほど、良い粘土なのだろうね。

 縄文人は狩猟採集の生活をおくる。
 そのための道具はさまざまで、代表的な石器は矢じりだろう。
 矢じりには珪質頁岩と樹木の化石である珪化木を利用したそうだ。
 それを製作した痕跡も確認されている。
 矢じりを矢に固定するため、天然アスファルトを活用していたとのこと。
 アスファルトは石器や土偶の修理にも使用したという。
 
 植物利用の実態も明らかになりつつあるそうだ。
 御所野遺跡ではクルミやクリ、トチの実が出土しており、食糧の一端が具体的になっている。
 また、竪穴住居の建材にはクリを利用し、植物質の屋根を土で覆っていたとのこと。
 石斧でクリの木を必死に伐採したのだろう。
 そのほかにもカゴを編んだりしていたとのこと。
 一戸町ではスズタケを用いた「鳥越の竹細工」が伝統工芸になっているが、それと同じ素材を4000以上前から使用してことが判明しているそうで、大きな話題になったことだろう。

 さらに他地域との交流の様子も明らかになっている。
 たとえば、秋田県側から天然アスファルト、新潟県の糸魚川からヒスイ、岩手県久慈のコハク、北海道日高地方のアオトラ石など、それぞれの性質に見合った使用方法が採用されている。
 ヒスイやコハクは生活必需品ではなく、心の豊かさを示しているのかもしれない。
 
 御所野遺跡は、最後解体され、周辺に分村するとのこと。
 多くなりすぎた人口を抱えきれなかったのであろうか。
 詳細は不明のようだが、最後の最後で特殊な文化が花開いたようだ。
 配石遺構である。
 文字通り、石材を規則的に配置した施設で、これを環状に配列する。
 これは墓標とのこと。
 分散した村人たちが、共通の祭祀場として利用するようになった姿という。
 住まわなくなってから、新たな公共の施設建設がはじまったようで、かつて御所野村でともに過ごしたということの重要性を示唆して面白い。

 祭祀と言えば、御所野遺跡ではさまざまな活動が行われていたようだ。
 先に記した焼いた木の実もその一環で、竪穴住居をわざと焼けば、動物の骨だって焼いてしまう。
 使えるもの、食べられるものをあえて焼失させてしまうこと自体に、何らかの重大な意義を見いだしたらしい。
このあたりの真意は、なかなか見えにくい。

 本書は御所野遺跡について概説するが、1集落だけで生活しているわけではなく、広域な人事交流の様子もうかがえた。
 ということは、周辺地域の縄文遺跡の分析も興味深い結果になるということではないか。
 世界文化遺産には、あと16の縄文遺跡も含まれている。
 他の遺跡でも興味深い成果が山積みのはず。
 他の遺跡に関する概説書もあるのだろうか?
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:449 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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