ゆうちゃんさん
レビュアー:
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コミュニティ「やりなおし世界文学」の元になった本。作家の津村記久子さんが興味を持った本の気儘な解説。
やりなおし世界文学、のコミュニティ・サイトに投稿することになって2年近く経っているが、既読作の投稿を終わり、未読作を読むようになって結構、難解な作品に当たるようになったので、著者がどんな思いでそういう作品を読んでいったのであろうかと疑問に思うことがあった。また、本書で取り上げた作品は作家の代表作のものもあれば、そうでもないものが並んでいる。例えば代表作を取り上げている場合として、シェイクスピアの「リア王」と「マクベス」、フィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」など。ところが、後者に当てはまる場合として、評者の個人的な意見に基づけば、例えば、ジェーン・オースティンの場合は代表作と言える「自負と偏見」ではなくて「ノーサンガー・アビー」、アガサ・クリスティーの場合は、「オリエント急行殺人事件」ではなくて、「パーカー・パインの事件簿」や「終わりなき夜に生まれつく」、フレデリック・ブラウンの場合は「発狂した宇宙」ではなく「スポンサーから一言」と言う短編集となっている。まあ、どれが代表作と考えるかは個人的な意見なので、後者については、人に依るのだろうが。このサイトに関わるようになってこれだけ時間が経ったのでもちろん、大本になっている本を読むべきだという思いもあって手にした。
自分の既読作で本書中の難解な作品と言えばポール・ヴァレリーの「ムッシュー・テスト」だが、この作品を取り上げた文章を読んでも、プロの作家にとっても難解な作品はやり難解なのだなと言う感想を持った。カフカの「城」については、若い頃、乱読したきりで、粗筋もうろ覚えだが、著者の言う「仕事が進まない小説」と言う視点は今後、再読するにあたって有意義な拠り所になりそうだ。僕が難解と感じたカポーティの「遠い声、遠い部屋」で取り上げているのは主に描写は場面への感動で、あまり著者は難解さを感じなかったように思える。
本書では、92項目に渡って著者が自分の体験を交えながら感想を述べている(1項目で複数の作品を取り上げているものも散見されるので作品数を数えるのはちょっと難しい)。うち46項目は既読作だった。読んでみると取り上げた作品は、著者の読書体験を元にしているということがわかる(まあ、当然そうなるのだが、そこに何かポリシーがあるかどうかが知りたいところ)。既読作を半分近く読んでいるので、
の記述は、そうかと思う。
もわからないではない(自分も、読む前は「飽満な体つきの女性が登場する小説」のような漠然とした印象を持っていた)。
単純に興味の赴くまま小説を手にしたかというと、必ずしもそういう訳でもなく、多少のバランス感覚も働いているが、好みも出ている。戦争が嫌いと仰るので、ガチンコで戦争を取り上げているのは「夜と霧」のみ。レマルクの「西部戦線異常なし」がないのもある意味当然。
作家ならではの視点もある。
以下はあとがきから。
結局、本の選択について簡単にわかる客観的なコンセプトがある訳でもないが、自分の読書体験に照らしてもこれはごく当たり前のことである。敢えて言うと題名がユニークだったり気を引くような作品だったり、を取り上げているような気がする。
既読作については、読んだ感想が自分とどれほど違うのか、という点も興味がある。例えばトーマス・マンの「トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す」などは自分と変わるところはない感じだった。一方でモリエールの「人間嫌い」については、自分は主人公のアルセストにしか注目しなかったが、セリメーヌへの視点に注目されたのは新しい。既読作については、自分にはない視点を貰うことが多い。これは既読作にしか言えないことだが、どの項目でもユニークな書き出しをしている割りに、著者の言うことに対して「これは違うだろう」と思うところはなかった。
津村記久子さんの作品として読んだことがあるのは新聞の連載「ディス・イズ・ザ・デイ」のみである(当サイトには未投稿)。ラフカディオ・ハーンのところでこの作品の取材で松江に行ったとちょっと触れられている(本書では「国内サッカーのサポーターについての小説」と呼んでいる。松江にプロのサッカー・チームがあるのかどうか評者は知らない)。読んだ作品がたった一作であるが故、津村記久子さんの作品の性向について論じることは出来ないが、純文学の他にSF、推理小説の分野でもハードボイルド的なものがお好きそうだと言う印象がある。「ディス・イズ・ザ・デイ」の内容からするとちょっと意外である。
自分の既読作で本書中の難解な作品と言えばポール・ヴァレリーの「ムッシュー・テスト」だが、この作品を取り上げた文章を読んでも、プロの作家にとっても難解な作品はやり難解なのだなと言う感想を持った。カフカの「城」については、若い頃、乱読したきりで、粗筋もうろ覚えだが、著者の言う「仕事が進まない小説」と言う視点は今後、再読するにあたって有意義な拠り所になりそうだ。僕が難解と感じたカポーティの「遠い声、遠い部屋」で取り上げているのは主に描写は場面への感動で、あまり著者は難解さを感じなかったように思える。
本書では、92項目に渡って著者が自分の体験を交えながら感想を述べている(1項目で複数の作品を取り上げているものも散見されるので作品数を数えるのはちょっと難しい)。うち46項目は既読作だった。読んでみると取り上げた作品は、著者の読書体験を元にしているということがわかる(まあ、当然そうなるのだが、そこに何かポリシーがあるかどうかが知りたいところ)。既読作を半分近く読んでいるので、
「人がたくさん出て来て、それぞれが別の方向を向いている話」が好きだと言うのは一貫してあった(115頁、アンダソン「ワインズバーグ・オハイオ」)。
の記述は、そうかと思う。
著者は「肉体の悪魔」を飽満な体つきの女性が登場する小説だと思っていたそうで、
「意味のわからないタイトルの小説の中身を確認する」と言う基本に立ち返って本書(肉体の悪魔)を開くことにした(140頁)。
もわからないではない(自分も、読む前は「飽満な体つきの女性が登場する小説」のような漠然とした印象を持っていた)。
単純に興味の赴くまま小説を手にしたかというと、必ずしもそういう訳でもなく、多少のバランス感覚も働いているが、好みも出ている。戦争が嫌いと仰るので、ガチンコで戦争を取り上げているのは「夜と霧」のみ。レマルクの「西部戦線異常なし」がないのもある意味当然。
戦争に関わる本をあまり読めないのは心の準備が出来ていないからだろう。書物を通じて自分が傷つくのを恐れている。誰かの恐怖や嘆きを追体験することを恐れている(167頁、フランクル「夜と霧」)。
作家ならではの視点もある。
見て来たものと感じたことについて、ゼロから考えて組み立てるという作家の作業の困難さが、どう読んだらいいのかわからないと言う読み始めの戸惑いも相まって体感できる本だと思う(193~194頁、リルケ「マルテの手記」)。
以下はあとがきから。
本書は文学の教養がまったくない人間が、数年かけて月に一回、自分がどうも文学らしいと思っている本を読んだ感想の記録だと考えていただけるとありがたいです(330頁)。
楽しく読んでいろいろ考えることは自体は、特に文学的な知識がなくてもできるんだなと感じてくれればそれでいいやと思います(330~331頁)。
結局、本の選択について簡単にわかる客観的なコンセプトがある訳でもないが、自分の読書体験に照らしてもこれはごく当たり前のことである。敢えて言うと題名がユニークだったり気を引くような作品だったり、を取り上げているような気がする。
既読作については、読んだ感想が自分とどれほど違うのか、という点も興味がある。例えばトーマス・マンの「トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す」などは自分と変わるところはない感じだった。一方でモリエールの「人間嫌い」については、自分は主人公のアルセストにしか注目しなかったが、セリメーヌへの視点に注目されたのは新しい。既読作については、自分にはない視点を貰うことが多い。これは既読作にしか言えないことだが、どの項目でもユニークな書き出しをしている割りに、著者の言うことに対して「これは違うだろう」と思うところはなかった。
津村記久子さんの作品として読んだことがあるのは新聞の連載「ディス・イズ・ザ・デイ」のみである(当サイトには未投稿)。ラフカディオ・ハーンのところでこの作品の取材で松江に行ったとちょっと触れられている(本書では「国内サッカーのサポーターについての小説」と呼んでいる。松江にプロのサッカー・チームがあるのかどうか評者は知らない)。読んだ作品がたった一作であるが故、津村記久子さんの作品の性向について論じることは出来ないが、純文学の他にSF、推理小説の分野でもハードボイルド的なものがお好きそうだと言う印象がある。「ディス・イズ・ザ・デイ」の内容からするとちょっと意外である。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784103319832
- 発売日:2022年06月01日
- 価格:1980円
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