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darklyさん
darkly
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清家一郎という政治家を操っているのは誰か?マトリョーシカの中には誰がいるのか?実は物語自体がマトリョーシカとなっている。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

官房長官にまで昇りつめた政治家清家一郎は将来の総理大臣候補だ。右腕の政策秘書として清家一郎をここまで育てたと自負している鈴木俊哉と一郎は愛媛の名門高校の同級生だ。一郎の父親は有力政治家であった。一郎の母親である浩子が東京のクラブでホステスをしていたころに恋愛関係となり一郎を身籠った。浩子は一郎に政治家になるよう小さい頃から言い聞かせている。

高校時代の生徒会長選の時から一郎の参謀役として暗躍し、その能力に自信を持っている俊哉は、一郎と一時疎遠となった時期もあったが結局一郎の国政選挙出馬に協力し当選させる。この選挙の直前、地場の有力議員が事故で急逝し一郎にチャンスが巡ってきたのだ。

その時は何も思わなかった俊哉であるが、後に一郎の政治家としての出世街道が軌道に乗った後、自分が危うく命を落とす事故に遭遇した時から俊哉の中に疑念が生じる。果たしてこの事故は偶然か?一郎の初出馬の時の議員の急逝はタイミングが良すぎやしまいか?一郎を操っているのは本当に俺なのかと。

この物語の主題が政治家清家一郎を操っているのは誰か、つまりマトリョーシカの一番奥に潜んでいるのは誰かということは題名からも誰しもが推測することだと思います。政治家が主人公だけに魑魅魍魎が跋扈する永田町での権力闘争の話かと思いきや、物語はファムファタール物のような様相を呈してきます。そして様々な事件(事故)が起こるのでミステリーの部分に読者の関心は惹きつけられます。

つまりミステリーの王道からしてみれば、唯一の黒幕がいるはずだと読者は思い込み、またそのように作者はミスリードしていきます。黒幕に操られるニセモノが政治家として国を指導することに対してある登場人物のセリフにこのようなものがあります。
ますます権力を掌握する“ニセモノ”がいて、しかもその“ニセモノ”でさえない、顔も知らない誰かの思いつき一つでこの国が舵取りされようとしているんです。恐ろしいですよ。
この考え方は作者を代弁しているのかもしれませんが、私はこの意見には半分同意し、半分同意しません。本物であろうがニセモノであろうが、ある特定の一人の人物が国を左右する物事を決めている状態こそが健全ではないと思うのです。沢山の人々の意見を聞き、取捨選択しながら物事を決定するという謙虚な態度で物事を決定するのであれば、たとえ決定者がニセモノであっても問題がないと思うという意味で同意しません。

過去のアメリカ大統領のジョージ・ブッシュを覚えていますでしょうか?私の勝手なイメージですがまさにマトリョーシカの外側ではないかと思っていました。家柄や見てくれが良くて国民に昂揚感を与えてくれるが政策の中身については多分サポートチームがしっかり見ている。確かにイラク戦争は間違った情報によって始めてしまい、結果大量破壊兵器が発見されませんでしたが、少なくともブッシュ一人が勝手に思い込んで起こした戦争ではないでしょう。民主主義も間違うことはあるでしょうが、現在のロシアを見ればわかるように独裁国家よりはましだと思います。

ロシアと言えば、また登場人物のセリフを引用させてもらいますが、
僕には嫉妬こそが世界を狂わせるという持論があります。嫉妬が束縛を生んで、その束縛が憎しみを生み、憎しみが戦争を生むのだと若い頃から考えていました。
冷戦終結後、西側と和解ムードだったロシアでありましたが、先進国の一つとしての待遇が得られずプライドを傷つけられた中で、弟分のくせに西側諸国に加わろうとするウクライナへの強烈な嫉妬がこのどこから見ても非合理な戦争を引き起こしたと考えるべきなのかもしれません。

話が脱線しましたが、物語の結末についてはもしかすると不満を覚える人もいるかと思います。確かにミステリーとして読めばカタルシスには欠けるとも言えます。しかし人間とは何かという大きな視点に立ってみれば腑に落ちます。ある意味この物語全体がマトリョーシカ構造になっていて、一番外側が政治物、その中にミステリー、そして一番中には人間の本質論が隠れている。なかなか唸らされる作品でした。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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