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終末思想に覆われた17世紀前半の聖地エダンで起きた悲劇は、天才バイオリニストと名器“黎明”によって引き起こされた。この悲劇を、聴くことのできない音楽ごと読ませる1冊。読後の寂寥感は、なかなかのもの。

音楽を取り扱う小説やマンガには、相当の技巧が求められると思う。
なにせ作品中で奏でられる調べを文章や絵で表現しなければいけないのだから。
映画やドラマであれば、音楽を流せば良い。
すでに存在している曲であろうと、オリジナルであろうと音として訴えかけることができる。
その手段を一切手放して、本書は文字だけで音楽を取り扱っている。
もちろん、音楽だけがテーマというわけではないが、主軸に音楽を据えている。
そして、聞こえない音楽での表現で本書は確実に成功を収めた言える。
本書の主要登場人物は3人。
主人公のゴヨ・ド・モルフェは貴族で、ピアニスト。
天才バイオリニストのアナトーゼ・バイエル。
トリスタン・ベルゼは2人ほどの音楽の才はないものの、人好きする性格で、幅広い交流を持つ。
物語はバイエルを軸に進む。
誰よりもバイオリンの才、音楽の才に恵まれた彼は、ひたむきにバイオリンの腕を磨いていく。
それは痛々しいくらいの情熱で、絶望感にあふれたひたむきさだった。
ただただ自分が奏でる音楽の、たった一人の“聴衆”を求めて。
ゴヨに対しては、敵意に近い感情をむき出しにしながら、それでいて完全に突き放さないような奇妙な関係を構築し、維持していく。
バイエルが心を許したのはトリスタンくらいのもの。
物語は3人の成長話、というわけではない。
場所は音楽に包まれた平穏な街、聖地エダン。
時期は17世紀前半だ。
この時期のエダンは終末思想が広まっていた。
預言者キセは3人の悲しい終末を見定め、エダンの行く末に身をゆだねていた。
エダンは決して普通の町ではない。
終末思想が流布されているだけではなく、神話が深く、重く覆いかぶさっている町でもあった。
「氷の木の森」の神話。
長い年月のもとすっかり凍り付いた神話はバイエルのバイオリンの調べにより氷解し、終末思想は現実のものに…。
バイエルの手には、多くの演奏家を魅了し、その命を奪ってきた白きバイオリン“黎明”。
黎明とバイエルが出会ったことで、物語は終末へと一気に滑り出した。
音楽は人に幸福をもたらす。
心に安寧を与えてもくれる。
でも、人を狂わせもする。
大切な人を失ったときに奏でたバイエルのレクイエムは、大衆を熱狂させた。
そして、求めた、さらなる“レクイエム”を。
それを求めたは“人”だけではなかった。
そのため悲劇は繰り返されることに。
芸術が人を強く熱狂させてしまうことは現実世界でも起こり得る。
それを流れるようなストーリーで綴る本書は、一気に読ませる力を持つだけではなく、読了後の寂寥感と妙なもったいなさを心に宿してくれた。
本書には終章扱いのような「氷の木の森 外伝」も掲載されている。
たった一人の聴衆をバイエルが求めるようになった背景を記す外伝は、本編最終章と合わせることで、より突き刺さってきた。
しばらくしたら、また読み直してみよう。
きっと、読み過ごしてしまった大切なところに、いろいろと気づくはず。
なにせ作品中で奏でられる調べを文章や絵で表現しなければいけないのだから。
映画やドラマであれば、音楽を流せば良い。
すでに存在している曲であろうと、オリジナルであろうと音として訴えかけることができる。
その手段を一切手放して、本書は文字だけで音楽を取り扱っている。
もちろん、音楽だけがテーマというわけではないが、主軸に音楽を据えている。
そして、聞こえない音楽での表現で本書は確実に成功を収めた言える。
本書の主要登場人物は3人。
主人公のゴヨ・ド・モルフェは貴族で、ピアニスト。
天才バイオリニストのアナトーゼ・バイエル。
トリスタン・ベルゼは2人ほどの音楽の才はないものの、人好きする性格で、幅広い交流を持つ。
物語はバイエルを軸に進む。
誰よりもバイオリンの才、音楽の才に恵まれた彼は、ひたむきにバイオリンの腕を磨いていく。
それは痛々しいくらいの情熱で、絶望感にあふれたひたむきさだった。
ただただ自分が奏でる音楽の、たった一人の“聴衆”を求めて。
ゴヨに対しては、敵意に近い感情をむき出しにしながら、それでいて完全に突き放さないような奇妙な関係を構築し、維持していく。
バイエルが心を許したのはトリスタンくらいのもの。
物語は3人の成長話、というわけではない。
場所は音楽に包まれた平穏な街、聖地エダン。
時期は17世紀前半だ。
この時期のエダンは終末思想が広まっていた。
預言者キセは3人の悲しい終末を見定め、エダンの行く末に身をゆだねていた。
エダンは決して普通の町ではない。
終末思想が流布されているだけではなく、神話が深く、重く覆いかぶさっている町でもあった。
「氷の木の森」の神話。
長い年月のもとすっかり凍り付いた神話はバイエルのバイオリンの調べにより氷解し、終末思想は現実のものに…。
バイエルの手には、多くの演奏家を魅了し、その命を奪ってきた白きバイオリン“黎明”。
黎明とバイエルが出会ったことで、物語は終末へと一気に滑り出した。
音楽は人に幸福をもたらす。
心に安寧を与えてもくれる。
でも、人を狂わせもする。
大切な人を失ったときに奏でたバイエルのレクイエムは、大衆を熱狂させた。
そして、求めた、さらなる“レクイエム”を。
それを求めたは“人”だけではなかった。
そのため悲劇は繰り返されることに。
芸術が人を強く熱狂させてしまうことは現実世界でも起こり得る。
それを流れるようなストーリーで綴る本書は、一気に読ませる力を持つだけではなく、読了後の寂寥感と妙なもったいなさを心に宿してくれた。
本書には終章扱いのような「氷の木の森 外伝」も掲載されている。
たった一人の聴衆をバイエルが求めるようになった背景を記す外伝は、本編最終章と合わせることで、より突き刺さってきた。
しばらくしたら、また読み直してみよう。
きっと、読み過ごしてしまった大切なところに、いろいろと気づくはず。
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ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
それでも、まだ偏り気味。
いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい!
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- 出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン
- ページ数:0
- ISBN:9784596708304
- 発売日:2022年07月01日
- 価格:2420円
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