ぽんきちさん
レビュアー:
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女王陛下は秘密の名探偵
イギリスで10万部、18か国で翻訳されているという人気シリーズの1冊目。
原題は”(Her Majesty The Queen Investigates) The Windsor Knot”。()内はシリーズ名でもあって、つまり『女王陛下は「ウィンザーノット」を捜査する』となる。原著の既刊は3冊、刊行予定が1冊で、いずれも『女王陛下は「〇〇」を捜査する』となる。なかなか気が利いた作り。
邦訳は2冊目の『バッキンガム宮殿の三匹の犬(The Three Dog Problem)』まで。
さて、本シリーズの探偵役は先ごろ亡くなった英国女王陛下その人である。
実のところ、巻末解説にある通り、女王陛下が登場するフィクションは少なくないという。行き過ぎたタブロイド紙などとの攻防はあるが、英王室は「コンテンツ化」されることに比較的鷹揚であるようにも感じる。愛され、親しまれ、それでいて隠されたミステリアスな部分もあり、想像を働かせるには格好の題材なのだろう。王室側もそれを許す懐の深さ(逆に言えばしたたかさ)を持っているということかもしれない。
本シリーズ、まだ1作目を読んだところであり、私は英王室に取り立てて詳しいわけではないが、王室内部の描写がある程度実態に近いのではないかと思われる。晩餐会や各国要人との面会などの行事、秘書官や近習ら、女王付きの人々の仕事、次々と公務をこなさねばならない女王のハードスケジュール。小柄でありながらエネルギッシュで魅力的なエリザベス女王や、口は悪いが磊落で悪気のない伴侶フィリップ王配の人柄も、人々がさもありなんと想像する通り。
そうした「舞台装置」がかっちりしているからこそ、投げ込まれるフィクション部分の「謎」が生きてくる。
2016年4月。
女王お気に入りのウィンザー城で、一人の若いロシア人ピアニストが遺体で発見される。前の晩、宿泊晩餐会に参加していた1人だった。
彼は当初、性的な快楽を得ようとして誤って事故死したと見られていた。だが、そうと断じるには不審な点が出てくる。
女王は、密かにこの事件を調べ始める。
本書の準主役はナイジェリア出身の若き女性秘書官補、ロージーである。この職について間もない。
女王が探偵といっても、表立って軍配を振り、犯人を追い詰めてとっちめるわけではない。手となり足となる存在が必要だ。実は女王は昔から謎解きがお得意だった。海千山千の各国政治家を相手にして渡り合ってきたのだ、その洞察力と政治力が凡庸なはずはない。女王の内緒の助手は代々、近しい部下が務めており、今回はロージーに白羽の矢が立ったというわけだった。
女王はあからさまでなくロージーに指示を与え、ロージーはその意を汲んで内密に捜査を進めていく。
さらには、警視庁やMI5にそれとなくヒントを与え、捜査を正しい方向に導いていく。
原題の「ウィンザーノット」はネクタイの結び方(knot)として知られているが、ウィンザー城の難局(knot)とも解釈できる。今回の事件では、紐の結びが事件の謎を解く1つのカギとなっており、なかなか洒落たタイトルである。
謎の出来もまずまずだが、やはり一番の魅力は女王の人柄だろう。
女王には手柄も名探偵の称号も不要である。そうしたものは欲しがる相手に与えてやればよいのだ。女王陛下ならではの慎ましさと寛容さ。人々は、一見優しい老婦人に見える女王に操られているのに、最後までそれに気づきもしない。
本書の事件、犠牲となったのは1人ではなかった。その人々の死を、女王は衷心から悼む。
そんな姿に胸を射抜かれて、この人を守りたい、この人に付いていきたいと思うのは、お付きのロージーだけではないだろう。
なかなかの快作。
原題は”(Her Majesty The Queen Investigates) The Windsor Knot”。()内はシリーズ名でもあって、つまり『女王陛下は「ウィンザーノット」を捜査する』となる。原著の既刊は3冊、刊行予定が1冊で、いずれも『女王陛下は「〇〇」を捜査する』となる。なかなか気が利いた作り。
邦訳は2冊目の『バッキンガム宮殿の三匹の犬(The Three Dog Problem)』まで。
さて、本シリーズの探偵役は先ごろ亡くなった英国女王陛下その人である。
実のところ、巻末解説にある通り、女王陛下が登場するフィクションは少なくないという。行き過ぎたタブロイド紙などとの攻防はあるが、英王室は「コンテンツ化」されることに比較的鷹揚であるようにも感じる。愛され、親しまれ、それでいて隠されたミステリアスな部分もあり、想像を働かせるには格好の題材なのだろう。王室側もそれを許す懐の深さ(逆に言えばしたたかさ)を持っているということかもしれない。
本シリーズ、まだ1作目を読んだところであり、私は英王室に取り立てて詳しいわけではないが、王室内部の描写がある程度実態に近いのではないかと思われる。晩餐会や各国要人との面会などの行事、秘書官や近習ら、女王付きの人々の仕事、次々と公務をこなさねばならない女王のハードスケジュール。小柄でありながらエネルギッシュで魅力的なエリザベス女王や、口は悪いが磊落で悪気のない伴侶フィリップ王配の人柄も、人々がさもありなんと想像する通り。
そうした「舞台装置」がかっちりしているからこそ、投げ込まれるフィクション部分の「謎」が生きてくる。
2016年4月。
女王お気に入りのウィンザー城で、一人の若いロシア人ピアニストが遺体で発見される。前の晩、宿泊晩餐会に参加していた1人だった。
彼は当初、性的な快楽を得ようとして誤って事故死したと見られていた。だが、そうと断じるには不審な点が出てくる。
女王は、密かにこの事件を調べ始める。
本書の準主役はナイジェリア出身の若き女性秘書官補、ロージーである。この職について間もない。
女王が探偵といっても、表立って軍配を振り、犯人を追い詰めてとっちめるわけではない。手となり足となる存在が必要だ。実は女王は昔から謎解きがお得意だった。海千山千の各国政治家を相手にして渡り合ってきたのだ、その洞察力と政治力が凡庸なはずはない。女王の内緒の助手は代々、近しい部下が務めており、今回はロージーに白羽の矢が立ったというわけだった。
女王はあからさまでなくロージーに指示を与え、ロージーはその意を汲んで内密に捜査を進めていく。
さらには、警視庁やMI5にそれとなくヒントを与え、捜査を正しい方向に導いていく。
原題の「ウィンザーノット」はネクタイの結び方(knot)として知られているが、ウィンザー城の難局(knot)とも解釈できる。今回の事件では、紐の結びが事件の謎を解く1つのカギとなっており、なかなか洒落たタイトルである。
謎の出来もまずまずだが、やはり一番の魅力は女王の人柄だろう。
女王には手柄も名探偵の称号も不要である。そうしたものは欲しがる相手に与えてやればよいのだ。女王陛下ならではの慎ましさと寛容さ。人々は、一見優しい老婦人に見える女王に操られているのに、最後までそれに気づきもしない。
本書の事件、犠牲となったのは1人ではなかった。その人々の死を、女王は衷心から悼む。
そんな姿に胸を射抜かれて、この人を守りたい、この人に付いていきたいと思うのは、お付きのロージーだけではないだろう。
なかなかの快作。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:0
- ISBN:9784041110195
- 発売日:2022年07月21日
- 価格:1430円
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