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Wings to fly
レビュアー:
「もう我慢の限界だぁ!よっしゃ早いとこ旅に出るぞ~!」っと立ち上がっちゃう私でありました。 #カドブン夏フェア2022
「前から訊こうと思ってたんだけど、君はどうやってストレスを発散しているの?」

ある中小企業の総務課に勤務して三年目の日和は、突然社長に質問された。上司の八つ当たりの的になっていることを把握した社長が、日和に配慮しておこなった面談の席でのことだ。
特に趣味もなく親しい友人もいないと答える日和に、社長が是非やってみなさいと勧めたのは旅行、それもひとり旅だった。

控えめで消極的な日和は、一大決心をして旅に出る。最初の目的地は熱海、まずは日帰りで、自分がひとり旅に向いているかどうかを確かめようというわけだ。ひとり旅の醍醐味とは、行先も宿もどこで何を食べるかも、自分以外の人間の趣味嗜好を一切気にしなくて良いこと。結論から言うと、周囲に気を遣いすぎる日和に、ひとり旅はぴったりだったのである。

彼女の旅には、それぞれに美味しそうな章題がついている。

熱海 茹で卵と干物定食
水郷佐原 蕎麦ととろとろ角煮
仙台 牛タンと立ち食い寿司
金沢 海鮮丼とハントンライス
福岡 博多ラーメンと鯛の兜煮

私は著者の『きよのお江戸料理日記』という作品で、シンプルな煮豆に食欲を翻弄された経験がある。涎が出そうな料理の描写が大得意な作家さんなのだ。

塩加減が絶妙な炭焼き牛タンがジュージュー、それを乗っけるほかほかご飯、火傷しそうなテールスープは青ネギ入りで、その合間に白菜の漬物シャキシャキ。脂がのって新鮮な鰤のお刺身の歯ごたえ、噛みしめると口の中におつゆが溢れ出す仙台麩のおでん。
ああ、なんという罪深さ。読者はどの土地でも我慢の限界を試されるので、ご用心あれ。

來宮神社(熱海)の境内にひとり静かに佇んだ日和は、樹齢二千年という大きな楠の枝を渡る風の音に耳を澄ませる。楠の葉擦れの音に、日頃の疲れが癒されてゆくのを感じながら彼女は思う。誰かと一緒だったら、この音に気付いただろうかと。
ひとり旅ならではの良さが、爽やかに伝わってくる。

純粋かつ前向きに旅を楽しめるようになってゆく日和の、生活の変化にもご注目。お土産選びの場面もわくわくと楽しませてくれて、旅心を刺激してくる一冊である。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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