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星落秋風五丈原
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なぜ彼は警察で話すことになったのか
 11月27日午前12時5分、フィ―リックスは警察のリー巡査に回答を録音されながら答えている。12歳9か月の子供が起きている時間ではない。保護者の同席もなく警察が子供を尋問して良いわけではない。なぜこんな事になっているのか。これが掴みである。

 顛末を語るのは表紙絵の少年フィ―リックス・ナッソンだ。名前からは北欧系のようだ。フィ―リックスと母親アストリッドは、【家の、短い歴史】という章を経て、キャンピングカーで暮らし始める。短い歴史になったのは、アストリッドの仕事が長く続かないからだ。長引く不況という社会要因もあるが、どうやらアストリッド自身にも問題があるらしいこと、そしてその事をフィ―リックスも知っていることが明かされる。キーワードはフィ―リックスが語る【アストリッド流「うそのつき方」】で紹介される、彼女のつく様々な嘘だ。「見えないうそ」「世界平和のためのうそ」「事実を大げさに言ううそ」「だれも傷つけないうそ」「だれかがひどい目にあうかもしれないうそ」と、嘘が次第に胡散臭くなってくるし、最後の嘘はダメだろう。しかしフィ―リックスによれば
アストリッドは一日のうちにだれも傷つけないうそとだれかがひどい目にあうかもしれないうその両方をつくことになる

どうやらこの辺りに、長きにわたるホームレス生活の原因がありそうだ。

 保護者たる大人がSOSを出しても、セーフティネットはすぐには届かないかもしれない。しかしそもそもSOSを出さなければ始まらない。アストリッドは性格上嘘をついたり犯罪を行うのか、それとも精神的に病を抱えているのか。はっきりとは示されないので、彼女が確信犯的毒親なのかはわからない。

 様々な事情を抱えてSOSを出せない人達は、簡単に悪者たちの標的になる。映画『こどもしょくどう』でも子供たちだけが住んでいたバンが、通りかかった悪童達に壊されるシーンが登場したが、本編にもひやっとする場面がある。何をされても物を言えないと舐めているので、単に社会のサポートを受けられないだけでなく、暴力の被害者となる可能性がある。今回はすんでのところで間に合ったが、事件が起こってからでは取り返しがつかない。日本でも起こり得る話として読んだ。

スーザン・ニールセン作品
ぼくだけのぶちまけ日記
    • 映画「こどもしょくどう」
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2329 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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