書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

献本書評
休蔵さん
休蔵
レビュアー:
日本列島に災害が多いのは、今も昔も同じらしい。そして、時代ごとにできることがある。本書は江戸時代の「土砂留め奉行」についてまとめた1冊。「土砂留め奉行」、はじめて聞きました。
 水害の報道を聞かない年はない。
 被害の代償はあるものの、毎年どこかで水害が発生している。
 国土が細長く、そのくせ複雑な地形で河川も多い日本列島では、川の流れの完全なる制御は不可能だ。
 それは時代をさかのぼっても言えること。
 ただ、てをこまねいているわけではなく、ソフト・ハード両面でさまざまな事業が行われている。 
 そして、江戸時代には「土砂留め奉行」なる役職が存在していたそうだ。
 副タイトルにあるように、「河川災害から地域を守る」ことが、彼らに課せられた責務である。
 では、その実態たるや、いかに。
 
 土砂留め奉行の制度は、五代将軍徳川綱吉の時代、具体的に言うと貞享元(1684)年に遡るという。
 日本全国津々浦々に配備されたものではなく、大和、山城、近江、摂津、河内の五か国に置かれたとのこと。
 制度は、17世紀末、京都・大阪近郊で水害が相次いだことを受け、淀川・大和川水系の土砂流出を防ぐことを目的とするからだ。

 幕府直轄領や大名・旗本の私領、寺社領に関係なく、郡を単位として大名衆に受け持たせた幕府の施策で、京都町奉行所を監督役所とした(元禄2年には摂津・河内が大阪町奉行所の管轄下に移行)。
  
 土砂留め奉行の日常的な業務内容は大きく3つ。
①村々からの願書や届出の受理と、それへの対応
②春秋2回の巡回
③京都・大阪町奉行所へのあいさつや諸届出業務
 願書の対応基準は、土砂留めとしての適不適に照らしたもので、樹木の伐採や水車の取り立て、山焼き堤切れなど、さまざまな内容の願書が持ち込まれた。
 相撲興行なんてものもあったようだ。

 さらに、土砂留めの具体的な方法も紹介されている。
 禿山の川筋に萱や木苗などを植栽する。
 土砂が流れる方向での、新規の焼き畑や切り畑は実施させない。
 川面に杭や柵を設置する。
 川幅を狭めるような事業は実施させない、などなど。
 
 土砂奉行は領域をこえた活動が特徴的である。
 河川流域は、人間が勝手に制定した領域をはるかにこえるため、部分的な対応ではどうにもできないことを理解しての判断だ。
 幕藩体制下では、各藩の領域の不可侵ぶりが想像されるが、幕府のよる指名というのがそんな権利をあっさりと乗り越えさせてしまった。
 各藩の支配領域を小刻みにした江戸時代ではあるが、重要案件については広い視野から施策を立案する柔軟性は堅持していたようで、それは命を受ける各藩にいたっても同様であったようだ。
 
 毎年のように起きる災害は、自然の猛威を前にしたときの、人間の無力さを教えてくれる。
 さまざまな分野の技術が発達し、専門知識も重積してきた。
 にもかかわらず、自然災害を無くすことはできていない。
 それは、これからも同様だろう。
 人間の対応は後手にまわらざるを得ない。
 むしろ、都市の発達が被害拡大に繋がっていることは否めない。
 江戸時代の「土砂留め奉行」は、いまからみるとささやかな取り組みに過ぎないのかもしれない。
 でも、長い歴史のなかでの災害との対峙の仕方から、私たちが学べることは多くあるに違いない。 
 乱伐の愚は江戸時代から注意されていたし、一自治体だけでの対応ではどうにもならないところは、今も昔も変わらない。
 古くを知ることは、新たな知恵を生み出すきっかけになるはずだ。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:449 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

参考になる:31票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image
    2022-07-05 19:57

    (コメントは消去されました。)

  2. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『土砂留め奉行: 河川災害から地域を守る』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ