三太郎さん
レビュアー:
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再婚相手と仙台に住むようになってから新調した、初めての特注の仕事机にまつわるあれこれと、著者のこれまでの作家人生を振り返るエッセイ。
1959年生まれの私小説作家の佐伯一麦さんが2013年から4年間に渡って山形の地方新聞に連載したエッセイが単行本になった。このサイトでも既にお二人のレビュアーが紹介している。
著者の佐伯さんのことは同じ高校の卒業生であるし、年齢も近いことから気になる作家さんだったのだが、彼の出世作であるア・ルース・ボーイは文章も小説のテーマも古風で、僕は彼の他の作品にはあまり触手が動かなかった。
でも空にみずうみやピロティを読んだら印象がすっかり変わった。「空にみずうみ」は著者が再婚相手の女性と暮らす仙台の高台にあるマンション(著者にならって共同住宅というべきかも)での日常を描き、「ピロティ」はその共同住宅の管理人さんのある一日を描いているのだが、どちらも人に対する眼差しの優しさやユーモアが感じられた。
彼の年譜をWikipediaで見ると、「ピロティ」も「空にみずうみも」も彼が再婚して仙台に帰ってきてからの作品で、ある時から彼の小説のテーマが変わったのではないかと思った。このエッセイのタイトルにもなっている「Nさんの机」が彼の家にやってくる経緯はこの本には書いてなかったが、離婚した妻の住む家のローンが払い終わり、子供が成人して養育費も払い終わって、経済的に余裕ができたことがオーダーメードの机を購入する決心をした一因だったらしい。
彼の破綻した最初の結婚とその後の離婚に至る愛憎劇にピリオドを打つ意味がNさんの机にはあったのかも。そのことを知ってからこのエッセイを読むのと知らないで読むのとでは読後感に違いが出てきそうだ。
僕が佐伯さんの若い時の作品に感じた暗さや古臭さは、「自然主義」文学者を演じていたのかもしれない著者に対して感じた古臭さだったかもしれない。
佐伯さんは県内随一の進学校に入学したが(たぶん学業での挫折感もあったかも知れないのだが)大学進学を拒絶して、卒業後すぐに上京してフリーランスの雑誌記者になるが、小説を書く時間を求めて(そしてもしかしたら私小説のネタを得るために)転職を繰り返したとか。
その頃にはもう結婚していて子供もいたのだが、その子には病気があった。そのことを元に書いた私小説で海燕新人文学賞を受賞するのだが、それが最初の結婚生活を破綻させた一因なのかも。当時の妻は著者が小説を書くことを酷く嫌っていて、芥川賞の候補作品にノミネートされた時にも、審査結果の連絡を自宅で受けることができなかったというのだから。当時の佐伯さんは家族に対しても優しくはなかったのだろう。
次には佐伯さんが20年かけ完結させたという小説「渡良瀬」を読んでみようかと思います。これは佐伯さんが東京での電気工の仕事中にアスベスト吸引による病気になり、家族で北関東へ移り住み工場勤務をしながら小説を書き続けた頃のことが描かれているようです。たぶんエゴイストだったろう著者が変わっていくきっかけが読み取れるかもしれません。
著者の佐伯さんのことは同じ高校の卒業生であるし、年齢も近いことから気になる作家さんだったのだが、彼の出世作であるア・ルース・ボーイは文章も小説のテーマも古風で、僕は彼の他の作品にはあまり触手が動かなかった。
でも空にみずうみやピロティを読んだら印象がすっかり変わった。「空にみずうみ」は著者が再婚相手の女性と暮らす仙台の高台にあるマンション(著者にならって共同住宅というべきかも)での日常を描き、「ピロティ」はその共同住宅の管理人さんのある一日を描いているのだが、どちらも人に対する眼差しの優しさやユーモアが感じられた。
彼の年譜をWikipediaで見ると、「ピロティ」も「空にみずうみも」も彼が再婚して仙台に帰ってきてからの作品で、ある時から彼の小説のテーマが変わったのではないかと思った。このエッセイのタイトルにもなっている「Nさんの机」が彼の家にやってくる経緯はこの本には書いてなかったが、離婚した妻の住む家のローンが払い終わり、子供が成人して養育費も払い終わって、経済的に余裕ができたことがオーダーメードの机を購入する決心をした一因だったらしい。
彼の破綻した最初の結婚とその後の離婚に至る愛憎劇にピリオドを打つ意味がNさんの机にはあったのかも。そのことを知ってからこのエッセイを読むのと知らないで読むのとでは読後感に違いが出てきそうだ。
僕が佐伯さんの若い時の作品に感じた暗さや古臭さは、「自然主義」文学者を演じていたのかもしれない著者に対して感じた古臭さだったかもしれない。
佐伯さんは県内随一の進学校に入学したが(たぶん学業での挫折感もあったかも知れないのだが)大学進学を拒絶して、卒業後すぐに上京してフリーランスの雑誌記者になるが、小説を書く時間を求めて(そしてもしかしたら私小説のネタを得るために)転職を繰り返したとか。
その頃にはもう結婚していて子供もいたのだが、その子には病気があった。そのことを元に書いた私小説で海燕新人文学賞を受賞するのだが、それが最初の結婚生活を破綻させた一因なのかも。当時の妻は著者が小説を書くことを酷く嫌っていて、芥川賞の候補作品にノミネートされた時にも、審査結果の連絡を自宅で受けることができなかったというのだから。当時の佐伯さんは家族に対しても優しくはなかったのだろう。
次には佐伯さんが20年かけ完結させたという小説「渡良瀬」を読んでみようかと思います。これは佐伯さんが東京での電気工の仕事中にアスベスト吸引による病気になり、家族で北関東へ移り住み工場勤務をしながら小説を書き続けた頃のことが描かれているようです。たぶんエゴイストだったろう著者が変わっていくきっかけが読み取れるかもしれません。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:田畑書店
- ページ数:0
- ISBN:9784803803976
- 発売日:2022年04月28日
- 価格:2420円
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