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三太郎さん
三太郎
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「タイムマシン」というより「タイムトンネル」の作り方じゃないかなあ。
本書は「タイムマシンのつくりかた」であるが、似たようなタイトルの本が他にもある。「タイムマシンのつくり方」とか「タイムマシンの作り方」とか。

漢字かひらがなかの違い以外に内容にも違いがあるのかは分からないが、本書はプロの物理学者によるかなり真面目な本である。アインシュタインの特殊相対性原理を利用した未来へ向かうタイムマシンの話から始まる。地球からロケットに乗って加速して準光速で宇宙を旅して再び地球に戻ってきた貴方は地球上での時間が宇宙船内の時間よりだいぶ進んでいることに気が付く。つまり未来へは行くことができる。

アインシュタインの一般相対性理論からは別の時間旅行を考えることができる。仮に地球の質量が今より桁違いに大きく、地上の重力が物凄く強ければ、地上での時間は宇宙空間での時間よりずっとゆっくり進む。そこで地上から宇宙へ旅して戻ってくれば貴方は地上の人よりもずっと年を早く取っている(浦島太郎みたいなものかな)。あまり嬉しくはないなあ。

しかしこれらの例では過去には行けない。そこで別のアイデアが必要になる。SFに出てくる「ワームホール」だ。ブラックホールの近くで時空間が歪んでロート状に細くなり、再度太くなると別の並行宇宙にでられるとか。でも計算するとワームホールは不安定で直ぐふさがってしまうため、通り抜ける時間はなさそうだ。

そこで別種のワームホールが考え出された。マイナス(負)のエネルギーをもつ物質(マイナスの質量をもつ物質でもある)があると、宇宙の離れたA地点とB地点の間をワームホールで結ぶことができる。このワームホールを通って未来へ行けるが、過去へも行けることが分かったという。ではどうやったらそんなマイナスのエネルギー物質を作れるのか?

ハイゼンベルクの不確定性原理によれば、プランク時間程度の極く短い時間なら負のエネルギーが生じる可能性がある。この不確定性原理によってできるワームホールを仮想ワームホールと呼ぶ。この原理を利用して恒久的なワームホールを作る方法を以下で紹介します。

ステップ1.衝突器で高温を作り出す 大型の重イオン衝突器で金やウランなどの重い原子を光速近くまで加速し衝突させると、10兆度もの高温になり、原子核もクォークとグルーオンにまでばらばらになる。

ステップ2.圧縮器でプラズマを圧縮する 衝突でできたクォーク・グルーオン・プラズマは高エネルギーだが、時空にワームホールを作るにはまだ足りない。これを圧縮し更に温度を10億倍の10億倍のプランク温度まで上げる。プラズマを狭い空間に閉じ込める方法は未知だが、核融合で使われる磁気ピンチ効果が有効かも。プラズマから生じた時空の泡にエネルギーを集中させるのが難しい。水素爆弾を使うとよいかも。こうして微細なワームホールが形成される。

ステップ3.膨張器でワームホールの穴を広げる 圧縮器でできた微細なワームホールに膨張器でマイナスエネルギーを注入し、ワームホールを大きくする。負のエネルギーの作り方も問題だ。候補の一つはカシミール効果を使うことだ。これは完全に鏡面の二枚の金属面を対向させて容器に入れ、容器の内部を完全な真空にして温度を絶対零度まで下げる。すると量子力学の効果により金属面の間に負のエネルギーが生まれる。それ以外にレーザー光を使う方法もある。しかしどちらにしても発生する負のエネルギーは小さく、ワームホールを直径1mまで拡張するのに宇宙の年齢より長い時間が必要だ。

強い重力場があると負のエネルギーは自動的に発生するかもしれない。ホーキングはブラックホールの表面で負のエネルギーが発生していると主張した。ブラックホールがなくても、ワームホール自体が大きな質量を持つので自動的に負のエネルギーを生むかもしれない。

ステップ4.差分器で時間差を作る ワームホールの両端の穴に時間差を作るには二つの方法が考えられる。第一は、一方の穴だけを準光速で回転させる、第二は一方の穴だけを中性子星の近くに持っていき重力により時間を遅れさせる。A地点の穴よりB地点の穴の時間が遅れているとすると、AからBへワームホールを通過すると過去へ行くことができる。

ただし、この過去への旅行はワームホールが作られた時点より以前の過去へは行けない。AD3000年にワームホールが出来たとすれば、3000年より前に戻ることはできない。恐竜時代に行くことはできないのだ。

最後に著者は過去への旅行により生じると思われるパラドクスについて考察している。パラドクスは因果律が破れることから生じるが、量子力学の不確定性で説明可能かもしれない。「平行宇宙」のアイデアである。またワームホール以外にも時間旅行を可能にするアイデアとして、「宇宙ひも」が紹介されている。どちらの時間旅行も量子力学から予想されることである。

以下は感想です。原理的に過去への旅行は可能なのかもしれませんが、当分実現は不可能な気がします。僕らが生きている間にワームホールができる可能性はないので、未来人が僕らのところにやって来ることもないし、当面パラドクスについても心配無用ということのようです。
    • ワームホール(Wikipediaより)
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:826 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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