ゆうちゃんさん
レビュアー:
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シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルが自分の蔵書から繰り広げる読書談義。世間の喧噪を忘れ、ひたすら読書の楽しさを主張している。これは誰もが共感するのではないだろうか。
本書の原題は「through the Magic door(魔法の扉を通って)」である。日本語訳の題名にも関わらず、本書はシャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルによる読書案内である(シャーロック・ホームズは登場しない)。原題は冒頭の著者の言葉「読書をすると言うことは魔法の扉をくぐることだ」から来ている。本書は一貫して世間の喧噪を忘れ、読書の世界に遊ぶ楽しさを述べている。
どうやら案内はドイルの書棚に並んでいる本の順にされているようだ。まず、マコーレイの「エッセイ」、「英国史」、それからウォルター・スコットの「アイヴァンホー」と「パリのロベール伯爵」。スコットの作品のうち前者は読んだことがあるが後者は未読。「東ローマ帝国の社会も描かれているが、滅びた文明全体を細部に至るまで綿密に、かつもっともらしく再構築できると言うことは、驚くべき力量だ」とあるので歴史小説が好きな自分としては、将来是非読んでみたい作品である。有名な「アイヴァンホー」を歴史小説の第一位に推すかと思いきや、この作品は第二位だとのこと。続いてサミュエル・ジョンソンと彼の伝記作者ボズウェル(ホームズ・シリーズではホームズが自らをジョンソン博士に準えて、ワトソン博士を「僕のボズウェル」という場面がある)、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」とピープスの日記、ジョージ・ボロウを挙げている。
そして、短編の達人としてエドガー・アラン・ポーを取り上げている。ドイルは「彼の後継者は皆彼に学んでいる」と言い、「黄金虫」と「モルグ街の殺人事件」をベストだとしいる。もうひとり短編の名手としてモーパッサンを挙げている。これは自分も最近、再読したばかりでドイルと意見が一致したのは嬉しい。しかもドイルがスイスのジェミニ峠に泊まり、経験したことを短編に書こうとしたらモーパッサンが既に同じものを書いていたという逸話も(多分この作品だろう)。他にも恐怖小説でもモーパッサンは優れているという。ここで第一位の歴史小説が登場し、それはリードの「修道院と炉辺」だそうだ。どうやら短編の様。評者は未読なのでこれも読んでみたい。
次が18世紀の作家たちでボロウ、リチャードソン、フィールディング、スモレットを挙げている。評者はこの中でフィールディングしか読んだことがない。
続く2章はナポレオン戦争関連の書籍で、ドイルはこの分野のコレクターでもあったらしい。ここでナポレオンとは関係ないが「『ギリエルミ・ホワイト蔵書 1672年』と言う本がある(136頁)」に言及されている。戦争法規に関する本だが、これは「緋色の研究」で被害者ドレッパーのポケットにあった本だ。これもナポレオンとは直接関係ないが、最後の方で騎士道について学ぶならワシントン・アーヴィングの「グラナダの征服」が良いとあった。中世を題材とした小説には興味があるのでこれも読んでみたいと思う。
旅行記や冒険記の分野では「十二冊の海洋文庫を作る」と仮定して取捨選択をしている。メルヴィルなども対象だが有名な「白鯨」は選に漏れている。ここでヴェルヌにも触れ、「自然科学の本物の知識をたくさんうまく使うことで、とても信じられない事柄に魅力的な信憑性を与えた」と言っている。ドイル自身もSFを書いているので、これは納得の説明である。この章で登場する海洋小説家クラーク・ラッセルはワトソン博士が「オレンジ種五つ」の事件で読んでいたと言及があった。この章の最後ではダーウィンとウォレスの著作も推薦している。最後の章では「科学もの、マイヤーズの心霊もの、随筆を読む」とあり、ドイルの心霊への関心がうかがえる。本書の最後ではドイルとほぼ同時代のスティーヴンスンを激賞している。今でもそうだが、当時のイギリスでは小説と言えば男女の恋愛を描くのが定番となっており、スティーヴンスンが「男の世界を描いている」のが評価の理由である。
ドイルは本書でホームズ物には全く触れていない。拙評の所々でホームズ物に言及したのは評者が入れた言葉である。ドイル自身のホームズ以外の著作にも全く触れていないので、ホームズが嫌いだからとかそういう理由ではなく、ドイル一流の公正さ、つまり本書で自分の作品を取り上げて宣伝などしない、と言うことから出てきた態度だろう。
ドイル自身は歴史小説家を自認していたので、歴史小説に関する蘊蓄や蔵書はそれなりに多い。また、騎士道や冒険と言ったキーワードで括れる小説も多めという印象。その人の性向は蔵書でわかるとどこかで読んだ気がするが、自分が知っているつもりのドイルと読書傾向は合っていると思う。このサイトで誰もが共感してもらえそうなのは、題名の「through the Magic door(魔法の扉を通って)」で、読書の楽しさを端的に表している。日本語訳がそもそもあるのか、と思うものも多数あるのだが、自分には積読が増える本でもある。
どうやら案内はドイルの書棚に並んでいる本の順にされているようだ。まず、マコーレイの「エッセイ」、「英国史」、それからウォルター・スコットの「アイヴァンホー」と「パリのロベール伯爵」。スコットの作品のうち前者は読んだことがあるが後者は未読。「東ローマ帝国の社会も描かれているが、滅びた文明全体を細部に至るまで綿密に、かつもっともらしく再構築できると言うことは、驚くべき力量だ」とあるので歴史小説が好きな自分としては、将来是非読んでみたい作品である。有名な「アイヴァンホー」を歴史小説の第一位に推すかと思いきや、この作品は第二位だとのこと。続いてサミュエル・ジョンソンと彼の伝記作者ボズウェル(ホームズ・シリーズではホームズが自らをジョンソン博士に準えて、ワトソン博士を「僕のボズウェル」という場面がある)、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」とピープスの日記、ジョージ・ボロウを挙げている。
そして、短編の達人としてエドガー・アラン・ポーを取り上げている。ドイルは「彼の後継者は皆彼に学んでいる」と言い、「黄金虫」と「モルグ街の殺人事件」をベストだとしいる。もうひとり短編の名手としてモーパッサンを挙げている。これは自分も最近、再読したばかりでドイルと意見が一致したのは嬉しい。しかもドイルがスイスのジェミニ峠に泊まり、経験したことを短編に書こうとしたらモーパッサンが既に同じものを書いていたという逸話も(多分この作品だろう)。他にも恐怖小説でもモーパッサンは優れているという。ここで第一位の歴史小説が登場し、それはリードの「修道院と炉辺」だそうだ。どうやら短編の様。評者は未読なのでこれも読んでみたい。
次が18世紀の作家たちでボロウ、リチャードソン、フィールディング、スモレットを挙げている。評者はこの中でフィールディングしか読んだことがない。
続く2章はナポレオン戦争関連の書籍で、ドイルはこの分野のコレクターでもあったらしい。ここでナポレオンとは関係ないが「『ギリエルミ・ホワイト蔵書 1672年』と言う本がある(136頁)」に言及されている。戦争法規に関する本だが、これは「緋色の研究」で被害者ドレッパーのポケットにあった本だ。これもナポレオンとは直接関係ないが、最後の方で騎士道について学ぶならワシントン・アーヴィングの「グラナダの征服」が良いとあった。中世を題材とした小説には興味があるのでこれも読んでみたいと思う。
旅行記や冒険記の分野では「十二冊の海洋文庫を作る」と仮定して取捨選択をしている。メルヴィルなども対象だが有名な「白鯨」は選に漏れている。ここでヴェルヌにも触れ、「自然科学の本物の知識をたくさんうまく使うことで、とても信じられない事柄に魅力的な信憑性を与えた」と言っている。ドイル自身もSFを書いているので、これは納得の説明である。この章で登場する海洋小説家クラーク・ラッセルはワトソン博士が「オレンジ種五つ」の事件で読んでいたと言及があった。この章の最後ではダーウィンとウォレスの著作も推薦している。最後の章では「科学もの、マイヤーズの心霊もの、随筆を読む」とあり、ドイルの心霊への関心がうかがえる。本書の最後ではドイルとほぼ同時代のスティーヴンスンを激賞している。今でもそうだが、当時のイギリスでは小説と言えば男女の恋愛を描くのが定番となっており、スティーヴンスンが「男の世界を描いている」のが評価の理由である。
ドイルは本書でホームズ物には全く触れていない。拙評の所々でホームズ物に言及したのは評者が入れた言葉である。ドイル自身のホームズ以外の著作にも全く触れていないので、ホームズが嫌いだからとかそういう理由ではなく、ドイル一流の公正さ、つまり本書で自分の作品を取り上げて宣伝などしない、と言うことから出てきた態度だろう。
ドイル自身は歴史小説家を自認していたので、歴史小説に関する蘊蓄や蔵書はそれなりに多い。また、騎士道や冒険と言ったキーワードで括れる小説も多めという印象。その人の性向は蔵書でわかるとどこかで読んだ気がするが、自分が知っているつもりのドイルと読書傾向は合っていると思う。このサイトで誰もが共感してもらえそうなのは、題名の「through the Magic door(魔法の扉を通って)」で、読書の楽しさを端的に表している。日本語訳がそもそもあるのか、と思うものも多数あるのだが、自分には積読が増える本でもある。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:大修館書店
- ページ数:0
- ISBN:9784469242683
- 発売日:1989年04月01日
- 価格:1762円
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