ぱせりさん
レビュアー:
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「私」と小さなデイヴィドはケンジントン公園で。
ピーターパンの物語といったら、ウェンディやフック船長が登場するネバーランドの冒険のほかに、もうひとつあり、もうひとり(?)のピーターパンがいる。
生まれて二週間めの赤ちゃんピーターは、生まれる前の、小鳥だった頃の自分を忘れられず、窓から飛び出してケンジントン公園のなかの「鳥の島」に飛んでいく。以来、ピーターはずっと、赤ちゃんの姿のまま、鳥や妖精たちと一緒に暮らしている、という。幻想的で美しい物語だ。
で、このピーターパンの物語は、こちらの本『小さな白い鳥』のなかに、「私」と幼いデイヴィドとが二人でこしらえた(思い出した?)お話として、挿入されているのだ。
独身の裕福な紳士「私」が、クラブの窓の下を通るかわいい住み込みの保母さんメアリに心動かされ、さまざまな場面で、こっそりと彼女の暮しを援助するようになったのが始まりである。
メアリが家庭を持ち、子どもが生まれると、「私」は、その子デイヴィドに夢中になり、たいていは、ケンジントン公園で一緒に過ごすことを楽しむようになる。デイヴィドは子守のアイリーンに連れられて、公園にやってくる。アイリーンがほかの乳母たちとおしゃべりに興じている間、「私」とデイヴィドはそれはすばらしい時間を過ごすのだ。
子どもとの付き合い皆無の独身の紳士と幼い子どもとの時間は、ただ一緒にいるだけで、いくらかファンタジーめいているけれど、そこに、いつのまにか魔法が混ざり、やがて、どこまでがほんとうのことかわからなくなってしまう。
ほんとうのことと幻想との境界のあいまいさが心地よい。
二人の間では、生まれる前の子どもがみんな鳥だったことは周知の事実である。デイヴィドはすでに忘れかけているが、「私」のおかげで、ちゃんと思い出すことができた。
ピーターパンが鳥の島から鶫(つぐみ)の巣の舟を漕いで、公園のどこにでも行くことも、ピーターパンがどうやって山羊をもらったかということも、ちゃんと知っている。
好きなのは、不思議な紳士ウィリアム・パタスンの物語。彼は、「私」とデイヴィドの新しい友だちだけれど、ちょっと変わっている。その正体は……。
子守娘アイリーンがデイヴィドに語って聞かせるお話はたったひとつだけだけれど、その話し振りの素晴らしさときたら……という話もいいなあ、と思う。
この美しい物語は、儚い夢のようだ。
やがてデイヴィドが「私」の手を振り切って大きくなっていく未来に寄せる寂しさが、現在の喜びの時間にしっかり混ざりこんでいるからだ。
いつか、嘗て子どもだった人はこんな風に考えるかもしれない。
「……大きな犬を連れた人だよ。その人が、ケンジントン公園でいろいろな話を聞かせてくれたと思うんだ。でもその他はみんな忘れてしまった。名前も思い出せないんだ」
生まれて二週間めの赤ちゃんピーターは、生まれる前の、小鳥だった頃の自分を忘れられず、窓から飛び出してケンジントン公園のなかの「鳥の島」に飛んでいく。以来、ピーターはずっと、赤ちゃんの姿のまま、鳥や妖精たちと一緒に暮らしている、という。幻想的で美しい物語だ。
で、このピーターパンの物語は、こちらの本『小さな白い鳥』のなかに、「私」と幼いデイヴィドとが二人でこしらえた(思い出した?)お話として、挿入されているのだ。
独身の裕福な紳士「私」が、クラブの窓の下を通るかわいい住み込みの保母さんメアリに心動かされ、さまざまな場面で、こっそりと彼女の暮しを援助するようになったのが始まりである。
メアリが家庭を持ち、子どもが生まれると、「私」は、その子デイヴィドに夢中になり、たいていは、ケンジントン公園で一緒に過ごすことを楽しむようになる。デイヴィドは子守のアイリーンに連れられて、公園にやってくる。アイリーンがほかの乳母たちとおしゃべりに興じている間、「私」とデイヴィドはそれはすばらしい時間を過ごすのだ。
子どもとの付き合い皆無の独身の紳士と幼い子どもとの時間は、ただ一緒にいるだけで、いくらかファンタジーめいているけれど、そこに、いつのまにか魔法が混ざり、やがて、どこまでがほんとうのことかわからなくなってしまう。
ほんとうのことと幻想との境界のあいまいさが心地よい。
二人の間では、生まれる前の子どもがみんな鳥だったことは周知の事実である。デイヴィドはすでに忘れかけているが、「私」のおかげで、ちゃんと思い出すことができた。
ピーターパンが鳥の島から鶫(つぐみ)の巣の舟を漕いで、公園のどこにでも行くことも、ピーターパンがどうやって山羊をもらったかということも、ちゃんと知っている。
好きなのは、不思議な紳士ウィリアム・パタスンの物語。彼は、「私」とデイヴィドの新しい友だちだけれど、ちょっと変わっている。その正体は……。
子守娘アイリーンがデイヴィドに語って聞かせるお話はたったひとつだけだけれど、その話し振りの素晴らしさときたら……という話もいいなあ、と思う。
この美しい物語は、儚い夢のようだ。
やがてデイヴィドが「私」の手を振り切って大きくなっていく未来に寄せる寂しさが、現在の喜びの時間にしっかり混ざりこんでいるからだ。
いつか、嘗て子どもだった人はこんな風に考えるかもしれない。
「……大きな犬を連れた人だよ。その人が、ケンジントン公園でいろいろな話を聞かせてくれたと思うんだ。でもその他はみんな忘れてしまった。名前も思い出せないんだ」
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
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- 出版社:パロル舎
- ページ数:0
- ISBN:9784894192713
- 発売日:2003年03月01日
- 価格:2979円
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