たけぞうさん
レビュアー:
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逆境のなかにある雑草のしぶとさ。
先行書評での評判がとても高いうえ、書評そのものも魅力的なものが並んでいる作品です。あらためて書評を読み返したら、皆さんとても的確で、素晴らしいものでした。存在感の強い作品です。どこを切り出しても魅力的で、自分もどう伝えようかなと考えました。書評のタイトルをかなり悩みました。生命力、あだ花なんて言葉も浮かびましたが、著者は何かを狙っている感じではなく、もっとシンプルに作品作りをしていたんじゃないかと思います。著者のむき出しの魅力を、わたしはしぶとさと表現してみました。
わたしはまず、ショートカット先「すべての月、すべての年」を読みました。小説を書くことへの著者の考えと、物語の萌芽のような掌編が収録されていました。
原本は七十六本の短篇で、三冊の短篇集に収録されています。著者の生涯で合わせて三冊しかないのです。掃除婦のための手引き書もいったんは発行されていますが、ペラペラの小冊子だそうです。リディア・ディヴィスさんというアメリカの小説家がいて、著者の作品を信奉しており、2015年に四十三篇を選んで掃除婦のための手引き書の題名で復刊しました。その作品で没後の評価が一気に高まりました。日本語版はさらに二分割して、この作品と「すべての月、すべての年」に収録されています。どちらを先に読んでもOKです。
一筋縄でいかないのがこの作品の魅力です。著者の人生経験を色濃く反映している特徴があります。でも、日本的な私小説とは全然違っています。日本の私小説は、事実描写に重きを置き、事実の奥に潜む人間性を見透かすものと思っています。この作品は事実を織り込みつつも、虚実ないまぜの形式をとっており、適度に脚色が入っているのですね。事実に縛られ過ぎず、でも事実に裏打ちされた迫力が伝わってくるというよさがあります。では、どんな脚色なのか、それが重要です。
「最初のデトックス」という作品で、著者の魅力をお伝えしようと思います。
群立病院のデトックス棟で、カルロッタは目を覚ましました。ふるえる足で廊下を歩きます。広い部屋には男が二人いました。二人とも醜くて、黒と白のデニムを着ていて、青あざがあり、包帯に血がにじんでいました。刑務所から来た人たちだとカルロッタは思いました。自分の服装が目に入ります。自分も黒と白のデニムで、青あざで血がついていました。アルコール中毒です。カルロッタに、大暴れして手錠や拘束服もつけられたような記憶がおぼろげながらよみがえってきたのです。
作品は、圧倒的でリアルな描写にあふれています。経験者じゃないと書けない場面があります。物語は、アル中患者との交流に移り、七日間の入院後に家に帰るというものです。最後の買い物の場面もとても印象的です。救いがあるようなないような、でもアルコールにあらがえない暴力性がとても生々しい作品です。
わたしは、この作品が著者の経験を色濃く反映している一方で、脚色があるように感じました。本当はアルコールから逃れたいカルロッタ。絡めとられてしまう日々。でもいつか脱却できるかもしれない、生きているうちにはきっとと、希望を抱かせるんですね。思うに、この作品の魅力はまさにこの希望感にあると思うのです。プラスの意思の力です。
どんな逆境にも負けないと言葉で書いてしまうと漫画かアニメですが、それを決して書かずに読者に伝えてくれる作品でした。プラス思考の一つですが、苦しみのなかで著者が体を張ってつかみ取ったものなので、身体の芯から湧き上がる生命力と一体化した著者自らの精神性だと思うのです。
正直に言うと読みやすくはないです。でも妙に引っかかる作品が多いです。わたしは、とにかく一回ざっと読み通して、雰囲気をこころの中に作り、気になる掌編を再読する読みかたをしました。そうすると、なぜか世界が開けてきました。独特の味わいのある一冊でした。
わたしはまず、ショートカット先「すべての月、すべての年」を読みました。小説を書くことへの著者の考えと、物語の萌芽のような掌編が収録されていました。
原本は七十六本の短篇で、三冊の短篇集に収録されています。著者の生涯で合わせて三冊しかないのです。掃除婦のための手引き書もいったんは発行されていますが、ペラペラの小冊子だそうです。リディア・ディヴィスさんというアメリカの小説家がいて、著者の作品を信奉しており、2015年に四十三篇を選んで掃除婦のための手引き書の題名で復刊しました。その作品で没後の評価が一気に高まりました。日本語版はさらに二分割して、この作品と「すべての月、すべての年」に収録されています。どちらを先に読んでもOKです。
一筋縄でいかないのがこの作品の魅力です。著者の人生経験を色濃く反映している特徴があります。でも、日本的な私小説とは全然違っています。日本の私小説は、事実描写に重きを置き、事実の奥に潜む人間性を見透かすものと思っています。この作品は事実を織り込みつつも、虚実ないまぜの形式をとっており、適度に脚色が入っているのですね。事実に縛られ過ぎず、でも事実に裏打ちされた迫力が伝わってくるというよさがあります。では、どんな脚色なのか、それが重要です。
「最初のデトックス」という作品で、著者の魅力をお伝えしようと思います。
群立病院のデトックス棟で、カルロッタは目を覚ましました。ふるえる足で廊下を歩きます。広い部屋には男が二人いました。二人とも醜くて、黒と白のデニムを着ていて、青あざがあり、包帯に血がにじんでいました。刑務所から来た人たちだとカルロッタは思いました。自分の服装が目に入ります。自分も黒と白のデニムで、青あざで血がついていました。アルコール中毒です。カルロッタに、大暴れして手錠や拘束服もつけられたような記憶がおぼろげながらよみがえってきたのです。
作品は、圧倒的でリアルな描写にあふれています。経験者じゃないと書けない場面があります。物語は、アル中患者との交流に移り、七日間の入院後に家に帰るというものです。最後の買い物の場面もとても印象的です。救いがあるようなないような、でもアルコールにあらがえない暴力性がとても生々しい作品です。
わたしは、この作品が著者の経験を色濃く反映している一方で、脚色があるように感じました。本当はアルコールから逃れたいカルロッタ。絡めとられてしまう日々。でもいつか脱却できるかもしれない、生きているうちにはきっとと、希望を抱かせるんですね。思うに、この作品の魅力はまさにこの希望感にあると思うのです。プラスの意思の力です。
どんな逆境にも負けないと言葉で書いてしまうと漫画かアニメですが、それを決して書かずに読者に伝えてくれる作品でした。プラス思考の一つですが、苦しみのなかで著者が体を張ってつかみ取ったものなので、身体の芯から湧き上がる生命力と一体化した著者自らの精神性だと思うのです。
正直に言うと読みやすくはないです。でも妙に引っかかる作品が多いです。わたしは、とにかく一回ざっと読み通して、雰囲気をこころの中に作り、気になる掌編を再読する読みかたをしました。そうすると、なぜか世界が開けてきました。独特の味わいのある一冊でした。
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ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
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- 出版社:講談社
- ページ数:0
- ISBN:9784065273074
- 発売日:2022年03月15日
- 価格:990円
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