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休蔵さん
休蔵
レビュアー:
『古代史』を語ることができる史料は限られていて、新発見は望むべくもない。でも、考古学の成果や神社、寺院、地名など、さまざまな資料を活用することで、新たな歴史叙事詩が紡ぎだせることを本書は教えてくれる。
 古代史は相当に限られた史料から探求しなければならない分野である。
 でも、近年の発掘調査成果の蓄積により、語られる内容は豊かなものになりつつある。
 そして、それは古代史料の解釈にも影響を及ぼす場面が出てきているようだ。
 
 本書が取り扱う時代はガチガチの官僚制が敷かれる前、5〜6世紀が中心だ。
 前方後円墳が全国各地に築かれ、古墳被葬者が豪族として乱立していた時代。
 『古事記』、『日本書紀』が中央集権感を全面に押し示している時代の、地方の実像を解き明かさんとしているのである。
 結論は、5〜6世紀には緩やかな連合体制が敷かれていたとするもの。
 けっして畿内が中心とは限らず、吉備や紀伊などにも強い勢力が存在し、支配、被支配という単純な関係性ではないという見方が示されている。
 各地で築かれた大型前方後円墳は各地で力を持った豪族の存在を示すもので、その被葬者たちは、より大型の前方後円墳に埋葬された畿内の豪族の配下に収められるような存在ではなかったというのだ。
 
 それが大きく変換したのが継体天皇の登場であるという。
 継体天皇は、それ以前の天皇とは系統を異にする存在である。
 現在の大阪府高槻市にある今城塚古墳が埋葬古墳とされているが、場所の乖離性も異系統の証か。
 継体天皇は、現在の滋賀県高島市となる近江の三尾出身の彦主人王を父に、現在の福井県福井市の越前の三国出身の振媛を母とする。
 それ以前の天皇とは系統を異にする継体は、後継者がいなくなった天皇家を継ぐ存在として大伴大連金村により発見され、即位を要請された。
 継体新王統の樹立は、それまでの王統とは異なり、近江を軸に北陸や東海といった広域の統べる強力な権力の成立へと展開する。
 かつて、一定の力を保持していた地方勢力が反乱するにはあまりにも強すぎる権力の成立へと。

 本書は、決して新しい史書を発掘して描き出されたものではない。
 『古事記』や『日本書紀』、『風土記』などの史書の見直しや考古学の研究成果、地名や神社など、多角的な検討により描かれた新たな歴史叙事詩である。
 古代の研究だからといって、新たな考えを提示することが不可能ではない。
 むしろ、視点の据え方によっては、いくらでも新たな歴史像が生み出せる可能性を本書は示している。
 それは、ただ学校では習う「日本史」を何の疑いもなく受け入れることの愚かさを示している。
 そして、身の回りにある神社の解説板にも興味を持つようになるに違いない。
 本書を読破したら、本を置いて町に出ることをお薦めしたい。
 きっと何らかの発見があるはず。
 本書は物事の捉え方を新たにする精神も教えてくれているのだから。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:450 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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