hackerさん
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「ドイツの支配下にあった三カ国のうちデンマークだけがこの(ユダヤ人)問題について自分の支配者であるドイツにあからさまに物を言う勇気を持っていた」(ハンナ・アーレント著『イェルサレムのアイヒマン』より)
ぱせりさんの書評で、この本のことを知りました。感謝いたします。
2000年刊の本書の文を書いたのは、1960年キューバのハバナ生まれのカーメン・アグラ・ディーディで、彼女は1963年に家族と一緒に難民としてアメリカに移住した経歴の持ち主です。絵はデンマーク生まれのヘンリー・ソレンセンの手になるものです。扱っているのは、1912年にデンマーク王となったクリスチャン10世(1870-1947)の、第二次大戦中のエピソードと伝説です。
デンマークは、1940年4月より1945年5月まで、実質的にドイツの支配下にありましたが、冒頭に掲げた引用でもお分かりのように、その期間も表向きドイツに逆らわなくても、平伏していたわけではありませんでした。その一つの象徴がクリスチャン10世だったわけで、Wikipedia では「ヒトラーがクリスチャン10世の誕生日に長い祝賀の手紙を送ったところ、クリスチャン10世の電報はたった一行『どうもありがとうございました。クリスチャン10世』(Meinen besten Dank. Chr. Rex)であった」という記述があります。当然、ヒトラーは激怒したそうです。
本書は、題名からお分かりのように、ナチスの「すべてのユダヤ人は、黄色い星の印を どんなときでも 見えるよう、自分の服に ぬいつけなければならぬ」という命令に対して、デンマーク国王が「星は星の中に」隠すアイデアを思いついて実践したという伝説を中心に描いたものです。それが、具体的にどんなものであったかは、本を手に取ってご確認ください。ただ、何の根拠もなく、こんな伝説が生まれるわけはなく、Wikipedia によると、デンマークでは「市民の協力によって(ユダヤ人の)99%がホロコーストから逃れることができた」そうです。その詳細は、本書の作者あとがきでも具体的な数字をあげて述べられています。
ですが、冷静に考えると、国王のリーダーシップだけで、こういう結果がもたらされたとは考えにくく、色々な要因があってのことではないかと思います。実は、本書に関してやや不満なのは、クリスチャン10世が立派すぎる点で、秦の時代に反乱を起こした陳勝の「王侯将相いずくんぞ種あらんや」という言葉にシンパシーを覚える私としては、現実世界に常に国民全体を気にかけている王がいるとも、国王を敬愛する民ばかりの国があるとも思えないのです。まぁ、こういうひねくれた感想を持つものが一人ぐらいいても良いでしょう。どうかご容赦ください。ただ、事実として、デンマークという国がユダヤ人の犠牲者の数を最小限にとどめようとし、ある程度それに成功したことを教えてくれるという意味では、有意義な絵本だと思います。
2000年刊の本書の文を書いたのは、1960年キューバのハバナ生まれのカーメン・アグラ・ディーディで、彼女は1963年に家族と一緒に難民としてアメリカに移住した経歴の持ち主です。絵はデンマーク生まれのヘンリー・ソレンセンの手になるものです。扱っているのは、1912年にデンマーク王となったクリスチャン10世(1870-1947)の、第二次大戦中のエピソードと伝説です。
デンマークは、1940年4月より1945年5月まで、実質的にドイツの支配下にありましたが、冒頭に掲げた引用でもお分かりのように、その期間も表向きドイツに逆らわなくても、平伏していたわけではありませんでした。その一つの象徴がクリスチャン10世だったわけで、Wikipedia では「ヒトラーがクリスチャン10世の誕生日に長い祝賀の手紙を送ったところ、クリスチャン10世の電報はたった一行『どうもありがとうございました。クリスチャン10世』(Meinen besten Dank. Chr. Rex)であった」という記述があります。当然、ヒトラーは激怒したそうです。
本書は、題名からお分かりのように、ナチスの「すべてのユダヤ人は、黄色い星の印を どんなときでも 見えるよう、自分の服に ぬいつけなければならぬ」という命令に対して、デンマーク国王が「星は星の中に」隠すアイデアを思いついて実践したという伝説を中心に描いたものです。それが、具体的にどんなものであったかは、本を手に取ってご確認ください。ただ、何の根拠もなく、こんな伝説が生まれるわけはなく、Wikipedia によると、デンマークでは「市民の協力によって(ユダヤ人の)99%がホロコーストから逃れることができた」そうです。その詳細は、本書の作者あとがきでも具体的な数字をあげて述べられています。
ですが、冷静に考えると、国王のリーダーシップだけで、こういう結果がもたらされたとは考えにくく、色々な要因があってのことではないかと思います。実は、本書に関してやや不満なのは、クリスチャン10世が立派すぎる点で、秦の時代に反乱を起こした陳勝の「王侯将相いずくんぞ種あらんや」という言葉にシンパシーを覚える私としては、現実世界に常に国民全体を気にかけている王がいるとも、国王を敬愛する民ばかりの国があるとも思えないのです。まぁ、こういうひねくれた感想を持つものが一人ぐらいいても良いでしょう。どうかご容赦ください。ただ、事実として、デンマークという国がユダヤ人の犠牲者の数を最小限にとどめようとし、ある程度それに成功したことを教えてくれるという意味では、有意義な絵本だと思います。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
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- 出版社:ビーエル出版
- ページ数:0
- ISBN:9784776410195
- 発売日:2021年10月27日
- 価格:1760円
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