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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
全部まとめて、一つの物語を読んだような気持になる。何が書かれていたか、というよりも、一作一作から滲み出る、あの人の気配をあつめるような気持ちで読んでいた。
職場では頼りになるナースであったり、教師であったり。妹思いの姉であり、辛抱強い母親であり。
めそめそする人は嫌いだけれど、そうかといって、人をむやみに切り捨てることのできない人でもあるのだ。
だけど、彼女は、重いアルコール依存症だ。自分を亡ぼすことを知りながら、浴びるほど飲まずにはいられない。
それだから、同類を敏感に感知するのかもしれない。
彼女のなかにある闇の深さを知る。寒々とした孤独に震えてしまう。


惨憺たる有り様と思うが、あっけにとられるほどの、さばさばと突き抜けるような、この人の人生(の一瞬)。いま、わたし、何を見ているのだろう。


複数の物語の主人公たちが、それぞれ補完しあって、一人の女性になって立ち上がる。そのまわりの人々が(家族が、恋人が、友だちが)特別のひとりひとりになって浮かび上がってくる。
一方には、ドン底であがく人びとがいて、上から見下ろす人びとがいて、まわりでにやにやしながら眺めている人びとがいる、一つのその町は、どこにでもある名もない町になってしまう。


雑踏に紛れ込みそうなのに、見失うことのない一人の人をずっと追いかけていく。
短編集だけれど、(ルシア・ベルリンのもう一分冊『掃除婦のための手引き書』とともに)全部まとめて、一つの長い物語を読んだような気持になる。何が書かれていたか、というよりも、一作一作から滲み出る、あの人の気配をあつめるような気持ちで読んでいた。


一作あげるなら『笑ってみせてよ』
悪意ある訴えにより、刑務所にぶちこまれそうな女性の弁護を引き受けた敏腕弁護士。彼を語り手にして、依頼人とその周辺の人々の姿を描いていく。
滅茶苦茶な生活ぶりの一方で、不思議なくらいの清楚さや誠実さを感じる依頼人たち。
どうしようもない暗い世界に、見え隠れする小さな光。
常識的で、一見、依頼人たちと真逆に見える語り手の内側には、見た目とは別のものが潜んでいる。社会に順応する(でもそれはほんとうにうまくいっていたのか)ために押し込め、忘れていたもの、眠らせていたものの存在に気がついた。それは同時に、彼が、この世でどこまでも孤独であること(孤独でいつづけること)に気づくことでもあり、それを受け入れることでもある。
この短編集の内では、わりとセンチメンタルな物語、とも思うけれど、それでもこの作品が心に残るのは、語り手が彼だからだと思う。
私は、彼に共感しつつ、拒絶されつつ……そこに近づいていく。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1734 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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