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darklyさん
darkly
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ファンタジー作家によるファンタジーであることは間違いないが、私にはSFとオカルトが混ざったような話に思える。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

主人公の名前はピラネージ。しかし彼は自分が誰なのか分かっていない。その場所にいる「もうひとり」が彼をそう呼んでいるだけ。その場所とは古代の彫刻や像がある広間が無数に連なっているところだ。広間は横に広がっているだけではない。上層には雲がある高さまで、下層には潮流が流れ込む。

ピラネージは下層で魚を捕獲して暮らしている。自分の他に生きている唯一の人間である「もうひとり」以外には様々な鳥たちがいるだけだ。ピラネージは広間を探索し地図を作り、潮の満ち引きや重なり具合を調べ、日記に記録しながらこの世界への理解を深めようとしている。そしてある時、生きている人間が二人だけではないことを知る。自分は誰なのか?「もうひとり」は、そして他の人たちは敵なのか、味方なのか?この世界は何なのか?

この作者の作品は初めて読みます。「ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル」という作品が処女長編としてベストセラーになったようです。「ピラネージ」はそれから16年の時を経た長編第二作ということです。作品の分類としてはファンタジーということなのでしょう。解説には「ナルニア国ものがたり」が下地になっているとの記述がありますが、私は完全なファンタジーというには少し違和感を覚えます。

その理由として二つあり、一つ目はこの物語の舞台は広間があるだけの奇妙なところではあるものの、起こることは私たちの世界と何も変わりません。魔法もなければ、幻獣が出てくるわけでもなく、普通の物理的な世界であるということです。

二つ目はこの世界についてある人物が語ったことにあります。
ただ消えてしまうものなどありはせん。そんなことは実際には不可能だ。私はそれを世界から流れ出ていく一種のエネルギーとして想像し、そのエネルギーはどこかへ行くはずだと考えた。そのときだ、他の場所、ほかの世界があるに違いないと気づいたのは。
この記述を読んで連想したのが重力の謎です。自然界には4つの力が存在しています。強い核力、弱い核力。電磁力、そして重力です。現在の物理学で解明できていないものに重力の弱さというものがあります。4つの力の内、重力だけが極端に弱いのです。具体的に言えば、机の上に置いたクリップに上から磁石を近づけるとクリップは磁石に吸い寄せられます。これは地球の質量が生み出す重力よりも、磁石が持つ磁力の方が強いということを意味します。そしてその重力の弱さを説明する仮説の一つに重力の一部が人間には感知できない他の次元に漏れ出ているために本来強いはずの重力が弱くなっているというものです。

あるいは
ここはわしが分流世界と呼ぶものだ―別の世界から流れ出す考えによって創造される。まずその別の世界が存在せんかぎり、この世界は存在しとらんはずだ
これはマルチバース的な考え方のようにも思えます。もちろん作者が宇宙物理学から着想を得た可能性は低いとは思いますが、個人的な印象として「ナルニア国ものがたり」的なファンタジーと言うよりはSFに近い設定のような印象を持ちながら読みました。

いずれにせよ、私にとっては大当たりな作品であり、是非第一作にも挑戦したいと思います。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2022-07-05 03:12

    主人公の名前は18世紀のイタリアの画家・建築家のピラネージからとったのでしょうか。彼は廃墟とか牢獄を描いて有名なのでタイトルから本の内容もイメージできる気がしました。

  2. darkly2022-07-05 22:40

    三太郎さん、コメントありがとうございます。物語自体には特に記述はありませんが、解説にはそのように書かれてあります。

  3. No Image

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