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たけぞう
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ざらり。ざらり、、、ざらり。
なにげない日常です。
それなりの規模の会社の、支店の事務所が舞台です。
仕事人間や、パワハラもどき、空気を読まない噂好きのおばさん、
みんなに愛想よくすることを最優先する女性。
よくある人間関係です。

柔らかい筆致で書かれているから、書かれている内容とのギャップが
浮き彫りになって面白いです。
最初の章で早くも違和感が生じますので、すぐに分かりますよ。
こんな内容です。

支店長がパワハラ気味にみんなを食事に連れ出します。
午後一の打合せのあった二谷は、もう一人の職場の同僚の男性と残って
弁当を食べています。その男性社員が、職場の華の芦川さんの机に近ずき、
机上のペットボトルを勝手に開けて味見してしまうのです。
同僚はもちろんおっさん。うげ。

芦川さんが支店長たちと帰ってきて、おいしいご飯だったと
報告していますが、二谷はペットボトルが気になります。
すると男性社員がいきなり、新作のお茶、気になっていたから
味見させてもらったわと言い放つのです。
バイトのおばさんは冗談ぽく非難の声を上げますが、
芦川さんはそれこそなんてことのないように、
みんなの目の前でペットボトルに口をつけたのです。

流れていく会話に、まるでたいしたことなかったとでもいいたげな。
奥底に、背筋が凍りつくような恐ろしさを感じたわたしは、
そこでいったん休止しました。ちょっと待て、この物語はなんなんだと。

最近の芥川賞受賞作品は、価値観破壊系ということもあり
話題作となりましたが、わたしはこの作品のような純文学の
原点回帰の作品も評価されて欲しいと思っています。
しかも文章は読みやすいですから。
表面を取り繕ったあやうさが文章の端々からにじみ出ており、
現代社会の身勝手さを表現できているところが見事です。

物語は二谷の視点が中心で、押尾さんという芦川さんを良く思わない
仕事系女性社員の視点も交えながら進んでいきます。
芦川さんは女子力高めで、従順で、いつも口角を上げるよう努力していて、
なんだか守ってあげたくなる雰囲気のある人です。
仕事はちょっと苦手で、その代わり味方がいっぱいいて、
事務所のみんなでフォローしてあげようみたいな女性社員です。

セクハラ、パワハラは声高に叫ばれますが、この本の最大のポイントは
弱者最強説です。むしろ、女子力ハラスメントとでも言いたげな。
弱者について登場人物が発するセリフを読んで、わたしは逆転の発想かもしれない、
これは言っちゃいけないやつなのではと、ひやひやしながら読み進めました。

芦川さんは会社に手作りのお菓子を作っていき、三時のおやつといって
みんなに配り歩きます。また、二谷と話しやすいと思ったのか、
一気に距離を詰めてきて、ご飯を作りに二谷のワンルームまで来たりします。
女子的な価値観を前面に出し、いろいろとゆるそうな人です。

著者の悪意は感じませんが、こういう傾向の女性っているよなと
胸に浮かぶ読者はいると思いますよ。
ジェンダーも含めていい悪いは分からないものの、ゆるりとした文体の裏で、
みんながなんとなく気になっていることを、ズバッと突いていると思うのです。
肉食系女子とは、こういう人のことを指すのか気になりました。

あまりにもエグくて、途中で読速が落ちました。
つまらないからではなく、秘められた毒が強すぎて、
こころを落ち着けながらでないと読み進められなかったのです。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1465 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
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