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Wings to fly
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「東洋の化粧品王」と「花街のクイーン」、絡み合い支えあい激動の時代を駆け抜けてゆく、ふたつの人生の物語。
明治末期から大正時代、神戸にはハイカラな居留地文化が広まり、経済発展の活気が満ちていた。そんな港町を舞台にしたこの作品には、ふたりの主役がいる。

男性主人公の名は、永山利一という。彼には実在のモデルがいるそうだ。今も続く化粧品メーカー「クラブコスメチックス」の初代社長、中山太一氏である。貧しい境遇から身を起こし、国産コスメ商品の開発に成功して「東洋の化粧品王」と呼ばれ、関西経済界の雄となる。

ヒロインは、牛より安い値段で花街に売られた少女。やがて彼女は花千代と名乗り、一流どころの紳士が通う花柳界花隈の名芸妓となる。

「利一さん」「ハナちゃん」と呼びあうふたりは、幼い頃に偶然出会い友達になる。商売に、芸に、一心に身を捧げつつ、互いを心の支えとして激動の時代を駆け抜けてゆく。

利一に比べて、ハナが得るものはあまりにも少ない。 たとえ番付筆頭とよばれようと、芸妓でいるということは、借金を返すために働くということだ。
「この里に、うちのものはなにひとつありもうはん。」と彼女は言う。

女は、社会的にも経済的にも無力な時代であった。だからこそ、誰にも頼らず自分の足で立つという、ハナの覚悟が胸に迫る。人生の転機にハナが選択した道はあまりにも鮮やかで、大きな愛を胸に凛として歩んでゆく姿に拍手喝采を送りたくなる。

大正浪漫を感じるお洒落な表紙には、大きなハートマーク、イチョウの葉を持つふたりが描かれている。
「ハートで勝負する」人生の物語なのだ。商品の形をした信用を売ることを目指す利一の姿勢を始めとして、誰かを思う真心が様々に降り積もる。神戸教会の脇の、樹齢千年のイチョウの木が、美しい金色の葉っぱを舞い散らせるように。

飛行機を使った利一の斬新な宣伝作戦、プロローグの臨場感から作品に引き込まれた。ぬか袋に変わる粉末石鹸に始まる国産コスメの夜明けの情景や、解けては絡み合うふたつの人生をハラハラと追いかけた後、最後に温かな安らぎが心を包み込む。

「ああ、ほんまに毎日が吉日やねえ。」
義理も役目も手柄も立て終えて、やっと迎える穏やかな日々。ご褒美みたいな優しい結末に、満たされる。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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