darklyさん
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アメリカ南部を題材にしたフォークナーの土台となる長編。その後に続く傑作群を読む上で読んでも損はない物語だが、あまりにも長い。
本書はフォークナーの第三長編のオリジナル版の翻訳です。日本では「サートリス」として知られているようです。フォークナーのヨクナパトーファ・サーガ(架空の土地ヨクナパトーファ郡ジェファソンが舞台の一連の小説群)の第1作目ということで、事実上アメリカ南部を題材にしたフォークナーの第一歩となる作品と言えるかもしれません。
途轍もなく長い小説であり、中途半端にあらすじを紹介したとしてもまとめきれるものではありません。アメリカ南部の名家であるサートリス家を舞台にその男たちとそれを取り巻く女たちの物語です。主人公の一人はヤング・ベイヤードですが、彼は第一次世界大戦において兄弟の戦死に遭遇してトラウマを抱え帰還します。彼はもう昔の、不変で安泰な南部の名家の一人としての世界観の中で生きることはできません。
一方、ミス・ジェニーは不変で安泰な南部の名家であるサートリス家の価値観を体現した存在であり、地元のヒエラルキーの頂点に立つ彼女から見れば、破滅的な行動を繰り返すヤング・ベイヤードの行動は理解できません。人種差別を含んだ南部の因習の色もまだ濃い時代ながらも、世界の変化の影響が徐々に忍び寄ってきている雰囲気がとてもよく感じられる物語だと思います。
ちなみにこの物語で重要なキャラクターにヤング・ベイヤードの妻であるナーシサ・サートリスとその兄ホレス・ベンボウがいますが、この二人は後の代表作「サンクチュアリ」にも登場します。特にホレス・ベンボウは弁護士として物語の中心人物としての役割です。「土にまみれた旗」は後の傑作を生みだす土台としての役割を担っていると言えます。
ストーリーは別として、物語全体の雰囲気はマルケスの「百年の孤独」にとてもよく似ています。実際マルケスはフォークナーに多大なる影響を受けたとされているので「百年の孤独」がこの物語に影響を受けている可能性が高いというほうが正しい言い方になります。まったく関係がありませんが、サートリス家の価値観を体現したミス・ジェニーと「華麗なる一族」で万俵家の価値観を体現した高須相子が私の中で被りました。
このような古い物語にはつきものの当時では当然であった人種差別、差別される側も当たり前のように受け入れていた時代は、正当化されるものではありませんが、現在は様々な差別に対してその反動があまりにも逆に振れている気がします。時代背景を無視した言葉狩りと思われる指摘がはびこり、少し行きすぎていると思われる社会的な是正措置も多い。昔の人々は差別することに捉われていたのかもしれませんが、現在は逆に差別とされないことに捉われていて、プラスとマイナスが逆でも絶対値は同じような気がします。理想は絶対値が0だと思うのですが。
途轍もなく長い小説であり、中途半端にあらすじを紹介したとしてもまとめきれるものではありません。アメリカ南部の名家であるサートリス家を舞台にその男たちとそれを取り巻く女たちの物語です。主人公の一人はヤング・ベイヤードですが、彼は第一次世界大戦において兄弟の戦死に遭遇してトラウマを抱え帰還します。彼はもう昔の、不変で安泰な南部の名家の一人としての世界観の中で生きることはできません。
一方、ミス・ジェニーは不変で安泰な南部の名家であるサートリス家の価値観を体現した存在であり、地元のヒエラルキーの頂点に立つ彼女から見れば、破滅的な行動を繰り返すヤング・ベイヤードの行動は理解できません。人種差別を含んだ南部の因習の色もまだ濃い時代ながらも、世界の変化の影響が徐々に忍び寄ってきている雰囲気がとてもよく感じられる物語だと思います。
ちなみにこの物語で重要なキャラクターにヤング・ベイヤードの妻であるナーシサ・サートリスとその兄ホレス・ベンボウがいますが、この二人は後の代表作「サンクチュアリ」にも登場します。特にホレス・ベンボウは弁護士として物語の中心人物としての役割です。「土にまみれた旗」は後の傑作を生みだす土台としての役割を担っていると言えます。
ストーリーは別として、物語全体の雰囲気はマルケスの「百年の孤独」にとてもよく似ています。実際マルケスはフォークナーに多大なる影響を受けたとされているので「百年の孤独」がこの物語に影響を受けている可能性が高いというほうが正しい言い方になります。まったく関係がありませんが、サートリス家の価値観を体現したミス・ジェニーと「華麗なる一族」で万俵家の価値観を体現した高須相子が私の中で被りました。
このような古い物語にはつきものの当時では当然であった人種差別、差別される側も当たり前のように受け入れていた時代は、正当化されるものではありませんが、現在は様々な差別に対してその反動があまりにも逆に振れている気がします。時代背景を無視した言葉狩りと思われる指摘がはびこり、少し行きすぎていると思われる社会的な是正措置も多い。昔の人々は差別することに捉われていたのかもしれませんが、現在は逆に差別とされないことに捉われていて、プラスとマイナスが逆でも絶対値は同じような気がします。理想は絶対値が0だと思うのですが。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:0
- ISBN:9784309208312
- 発売日:2021年06月16日
- 価格:5390円
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