書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

darklyさん
darkly
レビュアー:
アメリカ南部を題材にしたフォークナーの土台となる長編。その後に続く傑作群を読む上で読んでも損はない物語だが、あまりにも長い。
本書はフォークナーの第三長編のオリジナル版の翻訳です。日本では「サートリス」として知られているようです。フォークナーのヨクナパトーファ・サーガ(架空の土地ヨクナパトーファ郡ジェファソンが舞台の一連の小説群)の第1作目ということで、事実上アメリカ南部を題材にしたフォークナーの第一歩となる作品と言えるかもしれません。

途轍もなく長い小説であり、中途半端にあらすじを紹介したとしてもまとめきれるものではありません。アメリカ南部の名家であるサートリス家を舞台にその男たちとそれを取り巻く女たちの物語です。主人公の一人はヤング・ベイヤードですが、彼は第一次世界大戦において兄弟の戦死に遭遇してトラウマを抱え帰還します。彼はもう昔の、不変で安泰な南部の名家の一人としての世界観の中で生きることはできません。

一方、ミス・ジェニーは不変で安泰な南部の名家であるサートリス家の価値観を体現した存在であり、地元のヒエラルキーの頂点に立つ彼女から見れば、破滅的な行動を繰り返すヤング・ベイヤードの行動は理解できません。人種差別を含んだ南部の因習の色もまだ濃い時代ながらも、世界の変化の影響が徐々に忍び寄ってきている雰囲気がとてもよく感じられる物語だと思います。

ちなみにこの物語で重要なキャラクターにヤング・ベイヤードの妻であるナーシサ・サートリスとその兄ホレス・ベンボウがいますが、この二人は後の代表作「サンクチュアリ」にも登場します。特にホレス・ベンボウは弁護士として物語の中心人物としての役割です。「土にまみれた旗」は後の傑作を生みだす土台としての役割を担っていると言えます。

ストーリーは別として、物語全体の雰囲気はマルケスの「百年の孤独」にとてもよく似ています。実際マルケスはフォークナーに多大なる影響を受けたとされているので「百年の孤独」がこの物語に影響を受けている可能性が高いというほうが正しい言い方になります。まったく関係がありませんが、サートリス家の価値観を体現したミス・ジェニーと「華麗なる一族」で万俵家の価値観を体現した高須相子が私の中で被りました。

このような古い物語にはつきものの当時では当然であった人種差別、差別される側も当たり前のように受け入れていた時代は、正当化されるものではありませんが、現在は様々な差別に対してその反動があまりにも逆に振れている気がします。時代背景を無視した言葉狩りと思われる指摘がはびこり、少し行きすぎていると思われる社会的な是正措置も多い。昔の人々は差別することに捉われていたのかもしれませんが、現在は逆に差別とされないことに捉われていて、プラスとマイナスが逆でも絶対値は同じような気がします。理想は絶対値が0だと思うのですが。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

読んで楽しい:1票
素晴らしい洞察:3票
参考になる:28票
共感した:3票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. 菅原万亀2022-03-13 10:00

    今、アメリカ南部を背景とした作品を読んでいるので、たいへん参考になりました。
    フォークナーも読んでみたいです。ありがとうございました。

  2. darkly2022-03-13 10:25

    菅原万亀さん、コメントありがとうございます。フォークナーに限らず、アメリカ南部の文化というか雰囲気に私はとても惹きつけられます。菅原万亀さんのフォークナー評もお待ちしております。

  3. 脳裏雪2022-06-19 22:24

    私も何故かしら、八月の光 を再読しようっとおもってたところでした...誤読してたな、っとの確信があったので、、こちらを先にします、

  4. darkly2022-06-20 06:20

    脳裏雪さん、コメントありがとうございます。脳裏雪さんのようにフォークナーをよくご存じの方にとってはとても興味深い本だと思います。しかしフォークナーを全く読んだことがない方には全くお薦めできない本です。

  5. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『土にまみれた旗』のカテゴリ

登録されているカテゴリはありません。

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ