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Wings to fly
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古書店は、文化を後世に残すためにつながる、小さな鎖のひとつなのだ。
ふと目に留まった著者のインタビュー記事。
創作のきっかけは「編集者から神保町を舞台にした作品を提案されたこと」
「歴史のある街。どんな物語があるか考えるうちに、絶版の本と食べ物が登場する小説を考えました」

これは面白そうだと手に取ったのだが、大正解である。古書でつながる人たちが住んでいるその町には、素敵な喫茶店や老舗の中華、絶品カレーに熱々のピロシキのお店もある。本良し、食良し、人も良し。心満たされ勇気をもらい、人生に新たな一歩を踏み出してゆく、ふたりの女性の物語だ。

北海道・帯広で一人暮らしをしていた鷹島珊瑚は、兄の滋郎が急逝したため東京へ出てきた。兄は神保町の小さな古書店の主だった。鷹島古書店は良心的だと、研究者にも頼りにされる店である。愛する兄が残したものを守ろうと頑張る珊瑚だが、お隣の古書店やカフェの人たちに助けられて、なんとか店を開けている状態だ。そんな珊瑚の助っ人として、滋郎と珊瑚の甥の娘で古典文学専攻の大学院生・美希喜が登場する。

小林カツ代『お弁当作り ハッと驚く秘訣集』に始まり、丸谷才一『輝く日の宮』に至るまでの全6話は、古本の魅力と神保町グルメに彩られている。

古書店主としては経験不足でも、かなりの読書家の珊瑚は、色々な事情を抱えて本を探しに訪れるお客に、鷹島古書店の棚から本を差し出す。その本の語ること、珊瑚の言葉が、お客の心を慰める様子にこちらも癒される。

本に囲まれて過ごし、本に関わる人たちと気の置けないお喋りをして、今日のランチは何を食べようかなあと考える。このささやかな日常の、なんと贅沢なことだろう。

”美希喜(みきき)”と命名したのは大叔父の滋郎で、「(きちんと)見たり聞いたりする人になりますように」という願いがこもっている。古書店に漂う滋郎の気配を感じながら、様々な人生の機微を見聞きして、美希喜は自分が本当にやりたいことを考える。

「非効率かもしれなくても、古いものを残していく」ということ。
「本や物語といった文化を後世に残すための小さな輪の1つになる」という行為。

穏やかに流れてゆく物語の中で、それらの価値を再考させてくれる。選んだ道を生きてゆく覚悟が滲む最終章、古書に絡ませ思わず笑ってしまうラストシーンも、また良い。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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