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darklyさん
darkly
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どうしても「罪の声」と比較してしまう。
大路亨は父親から、祖母の菊代が同郷の辻静代のことを興信所に調査依頼をしていた理由について調査して欲しいと依頼される。菊代と静代は芦原(あわら)の大火(実際にあった福井県の温泉街の火災)の被害者だ。大路は調査のきっかけをつかむために静代の孫である珠緒に接触しようとするが、珠緒が失踪していることが判明する。調査を進めて行くうちに次第に明らかになっていく苦難の道を歩んできた女性たちの人生に隠された真実とは。

実際にあった出来事をモチーフに想像を膨らませて仮説を立てていく手法は作者の代表作「罪の声」で大成功したものであり、この物語もそれに近い構成となっています。しかしながら盛り込まれているいくつかのテーマ自体が日本社会を論じる上での典型的な論点であり、かつミステリとしてもどんでん返しがあるわけでもなく、アッと驚くトリックがあるわけでもなく、語りによって印象操作の罠に読者を陥らせるわけでもなく、調査と共に静かに物語は着地していきます。

音楽で例えるなら歌詞にメッセージ性がふんだんに盛り込まれているが、サビの盛り上がりが弱いために全体としてインパクトがなく印象に残らない曲といった感じです。この物語を作者は是非書きたかったというよりも、まるで芦原大火と日本の男性社会や現代の女性活躍を材料としたミステリを書いてくださいと依頼されて、それらをそつなくつないで作ったような印象を受けました。

ついでにもう一点言わせていただきますと、前半部分が大路による関係者へのインタビューによって珠緒の人となりを浮き彫りにしていく構成となっているのですが、これが私にはとても読みづらかった。大路の質問は記されず、関係者の答えから質問を類推しなければならない上に、やたら関係者が多く、いちいち前のページを行き来しなければ人間関係が把握できないのです。これが後々の伏線の回収やどんでん返しにつながるのであれば、この苦労も報われるのですが。

「罪の声」でハードルが上がってしまった私の厳しすぎる書評かもしれません。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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