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rodolfo1さん
rodolfo1
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自殺を試みたノーラの前に現れたのは生と死の狭間に存在する真夜中の図書館だった。そこでノーラはかつて夢見た様々な人生を生き直し、それらの夢のような人生にすらさまざまな問題点が隠れている事に気づく。。。
マット・ヘイグ作「ミッドナイト・ライブラリー」を読みました。

死を決意した日から19年前のその日、ノーラ・シードは故郷の高校の図書室の司書、エルム夫人といつものようにチェスをしていました。ノーラにとってエルム夫人は唯一の心許せる相手でした。母親はいつもノーラの間違いを正してばかりで、父親はノーラが水泳を辞めてから、何一つ長続きしない娘だと罵りました。将来のオリンピック選手と目されていたノーラは、ラグビー選手として挫折した父親の希望の星だったのでした。。。しかしエルム夫人は、ノーラの可能性は無限大だと諭し、氷河の研究者にだってなれると言いました。。。しかし突然学校に電話が入り、父親が突然死したと。。。

死を決意する27時間前、ノーラは働いていた楽器店の客で、一度お茶に誘われた事があった医師アッシュの訪問を受けました。アッシュはノーラの猫が道端で死んでいると言い。。。死んだ猫の事で気落ちしていたノーラは楽器店に遅刻し、店主に謝りましたが、店主は売り上げが減ったから仕方が無いのだと言ってノーラを首にしました。。。

死を決意する9時間前、元彼のダンから会いたいと言うメールをもらいましたが、ノーラは断りました。そもそも結婚式の2日前にノーラが式を取りやめてから2人の関係は悪化したのでした。適応障害を患っていたノーラは、どうしても結婚に踏み切れなかったのでした。。。

死を決意する8時間前、ノーラは日用雑貨店で元バンド仲間のラヴィに会いました。ラヴィは最近音信不通の兄のジョーに会ったと言い。。。実はメジャーデビュー予定だった元バンド、ラビリンスから、当時パニック障害を起こしていたノーラは脱退してしまい、デビューがおじゃんになった事からジョー達元バンドメンバーとは疎遠になっていました。一緒にオーストラリアに移住する筈だった親友のイジーも最近ノーラを疎遠にしており。。。

更に唯一のピアノの生徒だった子供のレッスンをこの騒動ですっかり忘れていたノーラは、ピアノレッスンも首になり、ノーラは全ての収入を絶たれ。。。ノーラは誰か自分を見つけてくれた人の為に遺書を書き、もっていた精神科の薬を大量に飲み。。。

ふと気づくとノーラは真夜中の図書館に居ました。待っていたのはあの司書のエルム夫人でした。夫人は、ここは死と生の狭間にある図書館だと言い、ここにあるどの本もが、ノーラが生きていたかもしれない人生へと誘うのだと言いました。あの時別の決断をしていたら物事はどれほど違っていたかを教えてくれるのだと言うのでした。そしてこの図書館が存在している間はノーラは死なない、改めて自分がどう生きたいのか決断しろと言いました。

そして最初の本を示し、それはノーラの抱え込んでしまった問題のおおもとである後悔の書でした。確かにその本にはノーラの後悔ばかりが書かれており、ノーラはその重さに押し潰されそうになりました、。。そしてエルム夫人は、ノーラが選んだ人生に失望すればまたこの図書館に戻ってくるが、その人生に満足すれば、そのままもう戻って来ないのだと言い。。。

最初にノーラが選んだ後悔は、ダンと別れた事でした。すると私の人生と称する本が現れ、それにはダンの夢だったダンのパブで、ダンと結婚したノーラが働いている様子が書かれていました。しかしそのノーラの人生は、結局破局を迎えたのでした。。。

次にノーラが選んだのは、猫を室内飼いにする人生でした。しかしやはり猫はノーラのベッドの下で死に、喧嘩腰になったノーラはエルム夫人に詰め寄りましたが、エルム夫人は猫の死んだ本当の理由をノーラに教え。。。

次のノーラの人生は、オーストラリアの海水プールで泳いでいると言うものでした。きっとイジーと一緒にオーストラリアに移住した人生なのだとノーラは思いました。しかしこの人生でのノーラは知らない女と汚い部屋をルームシェアしており、その女はイジーは交通事故で死んだと告げ。。。

図書館に戻ってきたノーラの次の人生は、水泳の元オリンピック金メダリストでした。全世界を回って講演旅行をし、皆にもてはやされていました。しかし手首を見ればリストカットした跡があり、抗鬱剤を常用していました。。。講演会で皆が期待するサクセスストーリーではなくノーラの人生の選択肢の話を始め、成功などただの妄想だと言い切り。。。

次のノーラの人生は、北極圏でした。北極研究隊に参加してスヴァールバル諸島にいました。その日のノーラの任務はライフルを持って襲ってくるかもしれない北極熊から観測隊を守る事でした。しかし実際に熊に襲われ、ノーラは初めて死にたくないと思ったのでした。。。エルム夫人は戻ってきたノーラに、もうノーラは死にたいなどと毛ほども思っていない。ノーラの後悔の書はどんどん軽くなって来ていると言い。。。

次のノーラの人生は仲間達とバンドを成功させて、全世界ツアーを敢行しているものでした。しかし人気者となっていたノーラの人生は、実は様々な葛藤に満ちたものだったのでした。それらの事件をマスコミにあげつらわれ。。。それをインタヴュアーに質問されたノーラは、悲しみも幸福も、どちらかだけを手に入れる事は人生では不可能だと答え。。。しかしこの人生では兄のジョーは薬物で命を落としており。。。

もうやめさせてくれとノーラはエルム夫人に頼みましたが、ならノーラは何故ここに戻って来たのかとエルム夫人は尋ねました。あんな辛い人生を送るならもう他の人生はいらないとノーラは言いましたが、ならノーラはこのまま死ぬだけだ、熊に殺されかかった時、ノーラはそうは思っていなかったとエルム夫人は言い、一番凡庸に見える事柄が最後は勝利に導いてくれる事もある、いつかの川での日のように、とも言いました。

その日ノーラは川べりで開かれた兄のパーティーに参加し、この川を泳ぎ切ってみろと挑発されて冷たい川に入って泳ぎ出し、溺れかかりました。兄はノーラを助けようと川に飛び込もうとしましたが、友達に制止され。。。しかしノーラは諦めずに泳ぎ切って生還したのでした。いつだって人生は行動だとエルム夫人は言い。。。当時ノーラはいつも人目ばかり気にしており、両親に気に入られようと両親が偏愛する兄に好かれていたかったのだと言いました。

しかし兄は兄で問題を抱えており。。。実は兄はゲイだったのでした。。。ノーラは人に認められようとばかりするのをそろそろやめるべきだとエルム夫人は言い。。。今まで試した人生は、皆他人の夢ばかりだったとノーラは思い。。。

次のノーラの人生は動物保護施設で働くと言う物でした。この人生は大変楽しい物で、ディランという恋人も居ました。しかしノーラはこの人生に満足しませんでした、次のノーラの人生は、アメリカのワイナリーで夫とワインを作ると言う物でした。しかし夫の関心事はノーラではなくワインだけだったのでした。。。ノーラは数々の人生を試し、エルム夫人はノーラが迷子になっていると言いました。結局自分には人生がわからないと言い、夫人は理解する必要は無い、ただ生きれば良いのだと言いました。そして夫人は哲学者ソローの言葉を借りました。大事なのはあなたが何を見ているかでは無い、何が見えているのかだと。。。

そして、ノーラがエルム夫人を夫人と認識するのは夫人がノーラに優しかったからだと良い、他に誰かに優しくして貰った事はないのかと言いました。ノーラは思い当たりました。それは猫が死んだことをわざわざ教えに来てくれたアッシュだと。。。

ノーラの最後に選んだ人生はアッシュとの暮らしでした。それは素晴らしいものでした。娘もいました。しかし不思議な事に、ノーラは全くこの人生に同化して行きませんでした。この完璧な人生はノーラ自身が努力して手に入れた物では全く無かったからでした。否応なくノーラは図書館に引き戻され。。。図書館は大混乱に陥っていました。夫人はノーラの命が尽きかかっていると言い、アッシュとの人生すら不十分だったのだと言いました。そして夫人はノーラに絶対に諦めてはいけないと言い残し。。。幸せであるために必要だった物とは。。。サルトルは言いました。人生は絶望の向こう側から始まると。。。

いや、良い話でしたね。自殺を試みたノーラの前に現れたのは生と死の狭間に存在する真夜中の図書館でした。そこでノーラはかつて夢見た様々な人生を生き直し、それらの夢のような人生にすらさまざまな問題点が隠れている事に気づくのでした。ノーラの振り返りと気づきは最後に驚きの結論に達し、ついにノーラは救われるのでした。。。
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rodolfo1
rodolfo1 さん本が好き!1級(書評数:866 件)

こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。

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