ぽんきちさん
レビュアー:
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歴史の中に消えた女たち
かつて筑豊には多くの炭鉱が存在した。古くから石炭の産出が知られていたこの地では、明治期に炭鉱開発が急速に発展し、戦前には国内随一の産出量を誇った。単独で行う作業というよりも、掘り出し・運び出しなどで協力する必要がある炭鉱の仕事では、家族や夫婦でともに働く例も多く、1906年の統計によれば、女坑夫は全体の1/4を占めたという。きつい仕事だが、工賃に性差はなく、多く掘れば多く稼げる、実力主義の仕事でもあった。
ところが昭和期になるとこの状況は一変する。労働者保護の機運が高まり、女坑夫は排除され始めた。戦後の労働基準法は女性の坑内労働を禁じ、女坑夫は過去のものとなり、やがてその存在も忘れ去られた。
本書は著者・森崎和江が1960年代にかつての女坑夫たちから当時の思い出を聞き取ったもの。一人称の語りに整えた「聞き書き」という手法は当時、先駆的なものだったという。自らは書くことのできない人、文字を綴るための教育を受けておらず、そうした習慣も持たない人の、いわば「声なき声」をすくいあげたものである。
危険な作業、暗い坑内。疲れて帰っても家事労働も待ち受ける。父親や夫が酒を飲んだり博打をしたりで苦労することもある。事故で大黒柱を失って、女系家族で各地の炭鉱を転々とした人もいる。禁忌もさまざまあり、生理の時には山に入れなかったそうである(そうでなくても身体がきついのでそうしたときには休みたいものだというが)。
とはいえ、腕がよければ頼りにされ、多くの人から声を掛けられて実入りがよかったり、娘同士で連帯して、いけ好かない事業方の若者をぎゃふんといわせてみたり。そこには、腕次第の労働者としての自信や誇りのようなものも窺える。
そういう意味では、炭鉱に入れなくなってからの方がつらかっただろう。宙ぶらりんになってしまった女坑夫たちは、器用に生き方を変えることなど難しく、やるせない思いを抱える人も多かったのではないか。
初版は理論社版(1961年)で、本書は三一書房版(1977年)を底本とする。
表紙と章の扉には山本作兵衛の炭坑記録画が添えられる。
在りし日の女労働者の生きた軌跡が浮かび上がる。
<山本作兵衛の炭坑画>
・『筑豊炭鉱絵巻 新装版』
・『新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録』
・『炭坑の絵師 山本作兵衛』
ところが昭和期になるとこの状況は一変する。労働者保護の機運が高まり、女坑夫は排除され始めた。戦後の労働基準法は女性の坑内労働を禁じ、女坑夫は過去のものとなり、やがてその存在も忘れ去られた。
本書は著者・森崎和江が1960年代にかつての女坑夫たちから当時の思い出を聞き取ったもの。一人称の語りに整えた「聞き書き」という手法は当時、先駆的なものだったという。自らは書くことのできない人、文字を綴るための教育を受けておらず、そうした習慣も持たない人の、いわば「声なき声」をすくいあげたものである。
危険な作業、暗い坑内。疲れて帰っても家事労働も待ち受ける。父親や夫が酒を飲んだり博打をしたりで苦労することもある。事故で大黒柱を失って、女系家族で各地の炭鉱を転々とした人もいる。禁忌もさまざまあり、生理の時には山に入れなかったそうである(そうでなくても身体がきついのでそうしたときには休みたいものだというが)。
とはいえ、腕がよければ頼りにされ、多くの人から声を掛けられて実入りがよかったり、娘同士で連帯して、いけ好かない事業方の若者をぎゃふんといわせてみたり。そこには、腕次第の労働者としての自信や誇りのようなものも窺える。
そういう意味では、炭鉱に入れなくなってからの方がつらかっただろう。宙ぶらりんになってしまった女坑夫たちは、器用に生き方を変えることなど難しく、やるせない思いを抱える人も多かったのではないか。
初版は理論社版(1961年)で、本書は三一書房版(1977年)を底本とする。
表紙と章の扉には山本作兵衛の炭坑記録画が添えられる。
在りし日の女労働者の生きた軌跡が浮かび上がる。
<山本作兵衛の炭坑画>
・『筑豊炭鉱絵巻 新装版』
・『新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録』
・『炭坑の絵師 山本作兵衛』
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:0
- ISBN:9784003122617
- 発売日:2021年10月19日
- 価格:814円
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